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なんかまた横浜に行った話


 『永遠なるおしまいの夜にかぎって』を観に行った後日談。

ネイキッドロフトが入ってるビルの同じ階は、いわゆるライブハウスで埋まってて、その店の中の一つにThumbs Upというライブハウスがある。
ネイキッドロフトのHPに載ってる店舗への行き方で同じ階にあることは知ってはいたが、間に視界を遮るものがない位置関係で目に入り「なんだ、こんなところにあったんだ」と思った。

 このライブハウスは、クレイジーケンバンドのギタリスト小野瀬雅生さんのブログで見て知ってた。
 自分のクレイジーケンバンドに対する認識は「タイガー&ドラゴン」くらいでほぼないのだが、何年か前にふとしたきっかけで小野瀬さんのサッポロ一番塩ラーメンに対する偏愛=愛とこだわりのあるブログを見て、面白いと思って他の記事も読むようになった。
(noteもやってらっしゃるが、美味しそうな食べ物とライブの情報はこちらが多い。)


 
なんで自分がライブハウスに興味を示すかというと、昔、バンドをやっていたというのもある。ドラムをやっていた。


 自分の好きな日本のバンド、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの元メンバーで現The Birthdayのドラマー、クハラカズユキさん。

クハラさんはブログもやっており、基本毎日午前中に更新され、毎日それを自分は見ている。

『永遠なるおしまいの夜にかぎって』を観に行った翌日にあたる日の回は、こんな内容だった。
                ⇩

クハラさんは毎回律儀に、ブログの後半は直近のライブスケジュールの告知で終わる。この日の次回ライブの会場はなんとThumbs Upだった。

※この回のブログから下記のフライヤーの画像を頂きました。

しかも、DJはEGO-WRAPPIN'の森さん。
知らない人が見たら素通りしそうなデザイン(失礼)

クハラさんは昔から掛け持ちで幾つかバンドをやってるが、うつみようこ&Yokoloco Bandもその中の一つ。

 対バンのP.A Rhapsodiesのボーカルの坂田かよさんは、以前「696」というロック系のクラブイベントを川村カオリさんとやっていた。
「696」にはメジャー、インディーの垣根なく音楽的に共鳴できるバンド、DJが集まって当時、その界隈で注目を集めた。

このクラブイベントには自分の好きなもう一つの日本のバンド、BLANKEY JET CITYからドラマーの中村達也さんがメインDJと、自身のソロプロジェクトだったLOSALIOSとして参加している。クハラさんもバンドセッションのゲストメンバーとして、ミッシェルの他のメンバーはチバユウスケさんとウエノコウジさんがゲストDJとして参加している。
「696」は当時行けなかったが、後に出たDVDはモニターに穴が開くほど観た。

 Yokoloco Bandのアルバムは昔、持っていたがライブはまだ観たことがなかった。 
 坂田かよさんが歌を唄うようになったことはクハラさんのブログを見てから詳細を調べるまで知らなかったが、「696」ではメインDJの一人でもあり、DVDでは音楽界で既に知名度のある他の参加メンバーと対等に、時には相手を食ってるかのような様子が描かれ輝いていた。

 Thumbs UpのHPを見るとライブの当日券はまだ残っているようだった。今、自分は比較的時間の融通が利く。なんかムズムズしてきた。


 よし、横浜に行こう。

 元々何も予定のない日だったが急な予定変更に、妻からの冷たい矢のような視線を武蔵坊弁慶のように受けつつも最寄駅へと向かった。武蔵坊弁慶のようには立ち止まれなかった。

 開演時間近くにThumbs Upに着いたが当日券はやはりまだあったので、難なく購入して店の奥へと進む。
ここは日本のライブハウスでは珍しいタイプの店で、フロアにはテーブルとソファ、椅子で席がきっちりと作られ、ハンバーガーなどアメリカンダイナー的な食事をしながらライブを観ることもできる。

 すでにDJタイムは始まっていて客席も八割方は埋まっている。 
とりあえず、席を選ぶようにお店のスタッフに促されたので、空いてる席でステージが観やすい場所を探すと、綺麗なリーゼントでキメたお兄さんの前の席が空いていた。
「すみません。ここの席、座っていいですか?」と自分が聞くと、笑顔で承諾してもらった。ライブハウスには見た目は厳つくても、話せば優しい人も多いのだ。
席を取り、飲み物をカウンターで頼んでバンドが出てくるのを待った。

 ふと、自分がいる反対側の通路に目をやると、スカイブルーの半袖シャツに鮮やかな赤のロングスカートを穿いた、すらっとした女性が立っていた。坂田かよさんかな?と思ったが「696」で見た、前腕部に入っているタトゥーが見えなくて確信が持てない。

もう、開演予定時間を10分以上過ぎていたが、なかなかライブが始まらない。
暑い中歩いて来て喉が渇いていたのと、手持ち無沙汰なのが相まって頼んだ二杯目の飲み物も半分以上が無くなろうとしていた。
その時、自分が座っていた側の近くの通路からバンドメンバーらしき人影がステージへ向かって行った。

 それはなんとYokoloco Bandだった。通常、何組かのバンドが出演するときは人気やキャリアが上のバンドが最後にやるものだが、今日は最初にやるらしい。

一曲目は、DEEP PURPLEの SPACE TRUKIN'のカバーからだった。

意外な選曲だと思ったが、うつみさんのパワフルなボーカルがハマっていてよかった。
二曲目以降は、にわかファンの自分はほぼ知らない曲だったが前方の席を陣取っているお姉さま方は、うつみさんやYokolocoのファンなのか時折りお決まりらしい振りなどして盛り上がっている。
グルーヴ感溢れるバンドの演奏に、自分も知らないながらも思わず全身でリズムを取る。

 曲間のM.Cは、うつみさんと他のメンバーのコミカルなやり取りで会場の空気が和むが、また演奏になると曲ごとの世界観に持って行かれる。
演奏に乗りながら楽しんでいると、あっという間に最後の曲に。
この曲は知ってる!(知ってるのに今、調べても曲名がわからない。確か、「ROCKABILITY」ってアルバムに入っているはず。)

ブギスタイルのノリのいい曲で会場は最高潮に盛り上がり、Yokoloco Bandのライブは終了。
うつみさんはM.Cでこのバンドのことを「バンドじゃないです。同好会。」とふざけて言っていたが、ベテラン実力派の良いライブだった。

 DJタイムに再び戻る。しばらく、次のライブは始まらなさそうなのでトイレに行ったり、飲み物を注文しようと席を立つ。

 途中、会場の通路で佇んでいるクハラさんを見つけて「すみません、握手してもらってもいいですか?」と尋ねると、快く応じてくれた。
クハラさんをライブハウスで間近に接するのは初めてではなく、以前他の店で見たときは自分の目の前を何気に通り過ぎたり、気さくな方なので話しかけて二、三の言葉のやり取りはしたことがあったが、握手は初めてだった。
クハラさんは小柄な方だが、がっしりとした手だった。なんか言おうと思ったが「ありがとうございます。」と言うのが精一杯になってしまって、そそくさと自分の席へと戻った。

 席に戻って飲み物を飲んでいると、さっきのスカイブルーの半袖シャツ&赤のロングスカートの女性がステージに上がった。やはり、坂田かよさんだったのだ。スポットライトが当たるとタトゥーも見えた。          P.A Rhapsodiesのライブが始まった。

「696」のときのイメージで身構えてたら静か目な曲調が多く意外だったが、坂田かよさんのボーカルがしっかりしているので力強い印象を受けた。

こんなに歌える人なんだと一人感嘆していると、M.Cで坂田さんが、うつみさんからボイトレを受けていることを知る。 坂田さんがうつみさんにずっと憧れていたこと。今日は P.A Rhapsodiesの企画でYokoloco Bandを呼べて嬉しいこと。(ここでYokoloco Bandが最初に出た理由がわかった。大体イベントを企画するバンドがトリをやるので、フライヤーに書かれているバンド順でヘッドライナー、先頭に書かれているバンドがトリだったのだ。)

最後の曲は、うつみさんをゲストに招いてのツインボーカルでシーナ&ロケッツ「レモンティー」のカバー。

この日一番の盛り上がりを見せてライブは終了した。
そこへすかさず、DJの森さんがシーナ&ロケッツの「YOU MAY DREAM」をかける。

そのままイベントはDJタイム、店はバータイムに移行した。
ステージと反対側のバーカウンターのある通路には時間の許す限り音楽を楽しもうという客に混じって、今日の出演者たちも喉を潤すためにカウンターへと足を向けていた。

 その中に坂田かよさんの後ろ姿を見つけ、「坂田さん!」と声をかけると振り返ってくれた。「握手してください。」と言うとサッと手を差し出して握手してくれた。(本日の握手二回目)
「あの、昔」と自分が話かけると会場の音楽の音量にかき消されて聞き取れないのか、坂田さんがこちらに耳を傾ける。
一歩前に進んで坂田さんの耳元で「昔、『696』のDVDずっと観てました。」と言ったら、笑顔で「ありがとうございます。また、ライブに来てください。」と言われた。 また行こうと思った。

 バーカウンターで飲み物のおかわりを注文してると自分の後ろにクハラさんが並んだ。会場のフランクな雰囲気に任せてクハラさんに「乾杯してください!」とお願いすると「おっ」というような表情の後、乾杯してもらった。
「この前の」と自分が話かけると会場の音楽の音量にかき消されて聞き取れないのか、クハラさんがこちらに耳を傾ける。
一歩前に進んでクハラさんの耳元で「この前の下北沢のライブにも行きました。あと、大久保であったライブではスネア(小太鼓)の事を聞いたんですけど」と言うと「今日もおんなじスネア。」とクハラさん。(本日の耳元トーク二回目)
「ミッシェルのときから使ってるやつですか?」と聞くと「いや、違うんだけど、軽いから(クハラさんは都内近郊のライブハウスへは、スネアと最小限の機材を手持ちで電車などで移動)最近はあればっかりなんだよね。」と音質を二の次にしているかの様にバツが悪そうに言うので、「音もいいですよ。」(実際いいと思う)と返すと「ほんと?」と少し照れたように笑っていた。 憧れのドラマーと楽器の話ができて嬉しかったが、あまり長く引き留めてはいけないと思い、「お疲れさまでした。」と言ってその場を離れる。

通路沿いの空いてる席に座って残りの飲み物を飲んでいると、向こうからグラスワインを持って、うつみさんが歩いて来た。「うつみさん!乾杯してもらっていいですか?」と聞くと少し驚いた様子だったが、乾杯してくれた後そのまま楽屋らしき部屋のドアへ向かって歩いて行った。(本日の乾杯二回目)

 多分、酔って気分が良くなった客だと思われたっぽいが、この日、自分は酒を一滴も飲んでいないのだった。

酒を飲むのをやめて10か月以上経つが、以前だったら飲まないことが考えられないシチュエーションでも全然飲みたくならないのは、我ながら変われば変わるものだと思う。(烏龍茶と甘い炭酸飲料に飽きてノンアルビールは飲んだけど。) 
やりたいことを我慢しないのなら酒なしでも全然いけるのだ。

憧れの人たちにたくさん接して、夢見心地のまま横浜を後にした。


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