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東京の一夜 1983年と2016年の8月7日~甲斐バンド THE BIG GIG AGAIN 観戦記~

「HEROはやらないんだね」
エンディングの「Power to the People」が終わると、一緒に観戦していた友人がそうつぶやいた。

そうなんだよ。「HERO」も「裏切りの街角」も演らないんだ。1983年の甲斐バンドは、ヒット曲を演らなくてもステージが成り立つバンドだったんだよ。僕はそう答えていた。

1983年8月7日に開催された伝説の野外イベント「THE BIG GIG」、そのセットリストを再現する。今回の企画を聞いたとき、それにどんな意味があるのかわからなかった。同じ8月7日、東京都内の野外ステージとはいえ、スケールも違えば、何より立地が違う。THE BIG GIGが行われた”ZONE"(都有5号地/現在は都庁が建っている場所)は高層ビルに囲まれた空き地だったことに意味がある。甲斐バンドの新しいチャレンジだ、との甲斐よしひろの言葉の意味を図りかねていた。

単に聴く側、オーディエンスとして参加する分にはそこまで考える必要はない。ノスタルジーで参加するのもありだろう。過ごしてきた33年間に思いをはせることもできる。だからすぐにチケット手配はした。だが、謎は当日まで持ち越していた。

BIG GIGのセットリストは、1983年7月に発売されたばかりのアルバム「GOLD」(ニューヨークミックス3部作の2作目)からの選曲が多かった。収録11曲のうち9曲やっている。自分たちの「現在」を見せる、という当時の甲斐バンドのスタイルに基づく選曲だった。

2008年の活動再開以後のセットリストは、バンドの歴史を俯瞰できるようなものになっている。ヒット曲はもちろんやる。「HERO」「裏切りの街角」のみならず、「感触(タッチ)」「ビューティフル・エネルギー」も取り上げられることが多い。ある特定時期に発表された曲を中心に構成されることはなかったように思う。

今回は違う。下記のセットリストを見てもらえばわかる通り、M03~M15まで、決してコンサートで「定番」と言われるような曲ではない。僕自身、ライブで聞くのは33年ぶりという曲も多かった。

もしかしたらそれがチャレンジだったのかもしれない、と思う。多くのオーディエンスが知っている曲を中心にステージを進めるのではなく、1983年の時点の甲斐バンドを2016年の「現在」として演じてみせる。2008年の活動再開以来、出来上がりつつあるある種の安定を壊してみようとしたのではないのか。

「同じセットリストでやっても、同じにはならない。」

との甲斐の言葉はそういう意味だったのではないか、と思った。

邪推かもしれない。別にそんなことを考えなくてもいいのかもしれない。実際、ステージの最中は、そんなことはまったく頭の中になかった。「ブライトンロック」のイントロに胸打たれ、「ダイナマイトが150屯」で涙した。「東京の一夜」でここまでの33年間に思いをはせ、「きんぽうげ」で、田中一郎と土屋公平のツインギターに驚喜した。単純に楽しませてもらえた。

ただ甲斐よしひろは、ときどき謎かけをしてくる人だ。今回のイベントが次にどう展開していくのか、それも妄想しながら楽しみたいと思っている。

途中、音響のトラブルが多少気になる場面があった。蝉も本気でうるさかった(笑) でも、それを含めて野外イベント。それに文句をいうならホールでやるコンサートだけに行けばいい。野外には野外の楽しさがある。そもそも、33年前は、3万人の一番後ろにいて、ステージなんて米粒くらいにしか見えなかったんだから。それと比べれば今回はステージ全部が見渡せて、満足です(笑)

そして、田中一郎がめちゃめちゃ楽しそうに演じていたのが強く印象に残った。33年前は、ARBを脱退しながら甲斐バンドへの正式加入前で、ステージに立ちたいと思いつつ関係者席で観ていたといわれる田中一郎。うれしかったんだろうな、と思う。はしゃいでいるとしか思えない一郎を見たのは初めて。プレーヤーが楽しんでいることが伝わってきて、こちらまで楽しませてもらえました。

<THE BIG GIG &THE BIG GIG AGAIN セットリスト>
M01.ブライトン・ロック
M02.ダイナマイトが150屯
M03.危険な道連れ
M04.テレフォン・ノイローゼ
M05.ムーンライト・プリズナー
M06.シーズン
M07.GOLD
M08.ボーイッシュ・ガール
M09.荒野をくだって
M10.MIDNIGHT
M11.安奈
M12.ナイト・ウェイブ
M13.東京の一夜
M14.SLEEPY CITY
M15.胸いっぱいの愛
M16.氷のくちびる
M17.ポップコーンをほおばって
M18.翼あるもの
M19.漂泊者(アウトロー)

E01.きんぽうげ
E02.観覧車'82
E03.100万$ナイト
E04.破れたハートを売り物に

追記・・・・・・Live DVD が発売になっています。『ダイナマイトが150屯』が収録されているだけで、買う価値があると思ってしまいました。


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