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悪い報告をした部下を褒めろ

「なんじゃ、これは!」

勤務先でも支援先でも、そう叫びそうになる事案に出会う機会があります。

「最悪の事態を想定する」
をモットーにしている僕でも
「そんなのは想定外だ」
と叫びたくなるようなことです。

支援先ならこれから改善しましょうと話をすればいいのでまだマシですが、これが勤務先だと絶望的な気分になります。こんなことに何年も気がつかなかったのか! と自分の能力を呪いたくなります。

誰かが悪意を持って意図的に隠し事をしたなら諦めもつきます。その悪人? に怒りをぶつければいい。しかし多くの場合はそんな巨悪な人はいません。小さな隠し事が重なって、いつか大事になるのです。

■先送りの果てに

この手の話は自分の体験談を書くわけにいきませんから(苦笑) 他人から聞いた話をぼやかして書きます。

工場で製造する部品に設計とは数ミリの差があると気付いた場合。
本来であれば、全部ストップして、上に報告してその差について確認しなくてはいけない約束になっています。しかし、納期を目前に控え
「まあ、このくらいは大丈夫だろう。それより納期を遅らせたら、会社に多大な損害を与える」と考えて、そのままにしてしまいました。
数ミリの差なので、すぐに問題は起きず、問題になったときには、当時の担当者はもう会社にいない、という話でした。

経理上でも似たような事例は起き得ます。

現場で不良品を大量に作ってしまいました。本来であればその期に廃棄損として処理すれば済む話ですが
「一気に処理すると赤字が大きくなるから、いったん、棚卸資産に計上して何年かかけて処理していこう」
と経理担当者が忖度します。官公庁の入札案件を多く手がけている会社だと、赤字は入札に不利だと思い込んでいて、こうした手法での赤字回避が(かつては)かなり行われていました。

しかしこれも、処理が終わらないうちに担当者が異動したり退職したりすると、ブラックボックスになりがちです。あとから
「この棚卸資産はどこにあるんじゃ」
となるわけです。

■怒られるのが嫌だ

こうした処理を会社ぐるみでやる場合もあります。トップまでちゃんと知った上でこうした処理をします。ただ僕が見るところ、多くは現場の判断で進めているように思います。

担当者に特段の悪意があったわけではありません。本人の気持ちとしては「会社のために」やったのだ、と言うでしょう。

ただその判断を上に仰がず自分でしている原因の一つが「怒られるのは嫌だ」という心理があると考えています。

難しい話ではありません。人間は誰しも怒られるのは嫌なものです。怒られるとわかっていて悪い内容の報告を積極的にする人はいないでしょう。ちゃんと報告する人であっても、内心、嫌だな、という気持ちを持っているはずです。隠せるものなら隠したいと思っているかもしれません。

上に立つ者としてこれに対する対策は一つしかないと思っています。それは
「悪い内容の報告をしてきた者を褒める。悪い内容を隠した者を罰する」
です。

「どんなことでも報告しろ」
と言ったところで、全員が必ず報告するようにはなりません。普段は隠せるはずがない考え、素直に報告に行く人でも、もし隠し通せると思える何かがあれば、その誘惑に負けないとは限らないのです。だから、「悪い内容の報告をしてきた者を褒める」のです。

そもそもトップにとって本当に欲しい情報は、悪い話でしょう。いい話は聞き流しておけばいい。悪い情報をいち早くつかんで、それにどう対処するかを考え、行動するのがトップの役割です。「悪い内容の報告をしてきた者を褒める」のは理にかなっているのです。

■テレワークの時代に

なぜいまこれを言い出したのか。大きな理由はテレワーク(在宅勤務)の拡大があります。テレワークがうまくいくかどうかのキーは「信頼関係」だと思います。中には自宅で仕事をするPCに会社に常時接続されているカメラを内蔵させ、ちゃんと仕事をしているか見張っていないと心配で仕方がない人もいるようです。そんな、パノプティコン(一望監視施設)のような装置をつけないと部下を信用できないなら、テレワークなんて認めるべきではありません。


信頼を結ぶために最も大切なのは「嘘をつかない」ことだと思います。例えば、在宅勤務中に子供が予定より早く帰ってきたから早めに仕事を切り上げたとします。そこで正直にそれを言うと、規定労働時間より短いじゃないか、と怒られてしまうのではないか、と思えば正直な報告を躊躇するかもしれません。どうせ離れているのだからバレはしない、と考えても不思議ではありません。

一方、管理者がそれを知れば、やっぱり信用ならん、監視カメラが必要だ、と正当化されてします。互いが信頼して仕事を進められる、離れていてもやるべき仕事はやってくれている、との信頼感がなく、家で仕事をしているかどうか監視する仕事が管理職に加わるだけなら、テレワークなどやらない方がマシです。

そして信頼関係を作るためには、上に立つ者が率先をしないといけません。まずは上職者から部下を信頼しなくてはいけないと思います。それをわかりやすく伝えるためには
「悪い内容の報告をしてきた者を褒める」ことが必要なのです。

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