中小企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)
診断士試験の勉強をしている頃、財務・会計と並んで苦手だった科目が「経営上情報システム」でした。もともとITには苦手意識があった上に、2000年から2005年、極めてアナログな会社に勤めていたので(その会社のPCは、僕が辞めた後、2008年になってもDOSを使っていました)、デジタル化の波に乗り遅れていたのです。そんなこともあって、見るのも嫌な状況でした。
それが10数年経ったら、支援先からデジタルに関する質問を受ける立場になりました。もちろん、昔よりははるかにITリテラシーが上がっている自信はありますが、専門家ではありません。一応、一通りの話を聞いた上で、専門性の高い知り合いの診断士につなぐようにしています。
そんなことをしていたらいつの間に、勤務先のDXに関わるようになりました。5年くらい前、基幹システムの再構築の担当になったのですが、いろいろあってうまくいかず、他の人に任せた経緯があります。もっともその人もうまく構築できず、ベンダーを入れ替えて、ゼロから再構築することになりました。
その様子を見ていて、気になるところもあったのですが、以前、担当してうまくいかなかったに人間があまり口を挟んでもリアリティがないだろうと思って黙っていました。しかし、開発が進むにつれて、黙っているのは罪である、と思うようになりました。5年前とは僕のITリテラシーが全く違うので、どう思われても首を突っ込んでいこうと思ったのです。なにより黙っていると、会計原則を無視したシステムができあがりそうな気がしてきたのです。
そんな経緯から、中小企業のDXについて考える機会が増えました。取り組んでみると、技術的な問題よりもメンタルな問題によって進捗しない場合が多いのだと感じています。
■DXの定義
経済産業省の資料によりDXを定義したのが下記の図になります。
デジタイゼーション(紙からデータへ)、デジタライゼーション(個別業務プロセスのデジタル化)、デジタルトランスフォーメーション(顧客起点の価値創出のためのビジネスモデルの変革)の三段階がしめされています。多くの中小企業ではデジタイゼーションすら出来ていない、つまり、紙が社内をぐるぐる回す状況が続いているのではないかと思います。
他人のことを言えた話ではなく、僕の勤務先でもいまだにほとんどの書類が紙で回っていて、スタンプラリーが続いています。僕が所管する部署だってデジタル化できたのは稟議書だけで、あとはいまだに紙が動いているのが実態です。
一部にはこの部分をデジタル化できてばDXだと思っている企業もあるようですが、それは違います。DXは「デジタル『トランスフォーメーション』」、変革・改革なわけで、紙の電子化はただの業務効率化に過ぎません。
■部分最適問題
次にデジタライゼーションに進んで、各部署が業務のデジタル化を進めるとします。ここで問題になるのが、従来とやり方はあまり変わらない方法でデジタル化を進めようとすることです。他部門との連携を考えず、自部門で完結させてしまうやり方をしてしまうのです。
基幹システムの開発に関わったときにも思ったのですが、各部門にヒアリングをしても、結局、出てくる話の大半はいままでと同じことができるかどうか、ということになります。伝票のメモ欄を大きくしてくれとか枠が小さくても見づらいといった話はできても、そもそも伝票は必要なのか、といって提起は起きてこないのが普通です。人はいままでと違うやり方をするのを潜在的には嫌うものです。だからこうなるのは仕方がない。だから、と言っていいと思うのですが、ヒアリングもほどほどに、と思うのです。部分最適を足しあわせても全体最適にはなりません。
■全体最適
DXと言うなら、何を変革するのか、その定義がないとできません。
上の図は『いまこそ知りたいDX戦略 自社のコアを再定義し、デジタル化する』という書籍に載っていたものですが、DXをしたいのであれば、自分たちの強み(≒コアコンピタンス)はなんであるのか、それをどう変革するのか、それが決まったところから逆算していかないと全体最適は導きだせなと思います。そして、それを定義できるのは経営者自身しかいないはずです。
とはいえ、すべての経営者にそれが定義できるとは思えません。単純にそれを求めるのは酷だろうと思います。出来るくらいなら、日本のDXはもっと進んでいると思います。
結局、すべて同時並行で進めて行かざるを得ない、と考えています。それは本来のあり方ではないのかもしれません。手をこまねいていると10年経ってもデジタイゼーションすれできていないことになりかねない。僕が関わるのに、それほどの時間をかけるわけにはいかないと思うのです。やりながら、試行錯誤しながら前に進める。それがいまできるベターな選択だと思わずにはいられません。
(追記)
現段階で僕がDXについて参照している書籍は下記の通りです。
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