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思考と現実は乖離したのだろうか? 〜マイケル・ルイス著『1兆円を盗んだ男』ご恵投いただきました

そういえば、そんな事件があったと思い出した。
仮想通貨取引所であるFTXが2022年11月に破綻した事件のことだ。
そして、FTXの創業者サム・バンクマン・フリードは、時代の寵児から一気にスキャンダラスな存在となった。

僕はこの領域にはあまり関心がなかったので、ニュースを遠目に眺めながら、「倫理観に欠けた起業家が一線を踏み越えた」というよくある事件だというようにカテゴライズしていた。
そして、それ以降、僕の頭にこの事件が思い出されることはなかった。

しかし、改めてこの事態を見返してみると、普通の事象ではないことがわかる。
そもそも取引所としては後発だったにも関わらず、投資家たちから多額の資金を調達し、驚くべきスパンで急成長を遂げたビジネスモデルを作り上げた人物だ。
世界最年少で億万長者にもなった人物でもある。
そこには、間違いなくサム・バンクマン・フリードという人物のカリスマ性もあったはずだ。

にも関わらず、彼の人物に関する情報がほとんど出てこない。
写真で見る限りでは、内気そうで冴えない風貌の若者だが、これほど謎に包まれた人物はいないだろう。

彼は頭の中で何を考えていたのか?
彼の犯罪には意図があったのか?それとも、結果論だったのか?
彼はそもそも「犯罪者」なのだろうか?

事実としては、2024年3月の一審の判決では、彼は25年の実刑判決を受けている。
しかし、彼の内面のことはいまだにわかっていない。

本書で謎に満ちた彼の内面を描いたのは、ブラッド・ピットが映画で主役を務めた『マネー・ボール』の著者であるマイケル・ルイスだ。

彼は、偶然にも2021年からサムに取材をしていたのだが、その1年後にFTXが破綻したのだ。
マイケル・ルイスは、この若手起業家の内面をどのように描くのか…。

そんな期待を持って、本書の扉を開けると、ダフィット・ヒルベルトの言葉がエピグラフとして引用されていた。
この文章に、マイケル・ルイスからのヒントが書かれているような気がする。
ここだけ、紹介しておこう。

どんな経験、観察、知識に訴えようと、無限というものは現実のどこにも見出せない。
事物についての思考は、事物そのものとこれほど異なりうるのだろうか?
思考の過程は、実際の事物の過程とこれほど違いうるのだろうか?
つまり、思考は現実からこれほどかけ離れうるのだろうか?

この文章は、サムの思考と、FTXが結果的に行き着いた顛末とが大きくかけ離れていることを示唆しているようにも感じられる。
さて、いかに…?

残り350ページ。これから読むのが楽しみな一冊だ。

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