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『構造化思考のレッスン』プロローグ無料公開
2月21日にディスカヴァー・トゥエンティワンより『構造化思考のレッスン』が出版されます。
この本は、flier book campでの講座「ストラクチャード・シンキング」をベースにして、その内容を大幅に刷新して出来上がった本です。
新規事業企画、ファシリテーション、アドバイザリー業務、対談、執筆など、僕の仕事は多岐に渡りますが、その根底を支えているのがこの「構造化思考」です。
この頭の使い方を、5Pというオリジナルのフレームワークに落とし込みました。そして、その内容をコウゾウとタカシくんという2人の対話により、ストーリー形式でお伝えしています。
すでにオンライン予約も可能になっています。是非ともよろしくお願いします!
本noteでは、冒頭のプロローグ部分を無料公開します。是非お楽しみください!
ピンポーン!
僕は突然のチャイムの音に我に返った。
「あ、もうこんな時間だ……!」
日曜日の午後、僕は自宅で週明けのタスク処理に向けた準備をしていたところだった。気づけば作業に入ってから2時間が経っている。しかし、一向に準備は進んでいない。
僕は自分の作業の遅さに苛立ちを覚えながらも、ドアの覗き穴越しに訪問者を確認した。どうやら宅配らしかった。
「何か頼んだっけな?」
受け取った荷物は、電子レンジくらいのサイズで、ずっしりと重たかった。
送り主を確認したが、その名前に覚えはない。何かの間違いかもしれないと思いながら、おそるおそる封を開けてみた。
「な、なんだこれ?」
僕は一人暮らしのワンルームマンション内に響く素っ頓狂な声を挙げた。
それは、白く四角い超合金のおもちゃのようでもあり、家電製品のようなたたずまいでもあった。
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配達ミスか何かだろうと思いつつも、好奇心を抑えられなかった僕は、その製品をゆっくりと箱から取り出してみた。すると、箱の底に送り状のような
ものが入っているのを発見した。
山本隆様
当選おめでとうございます!
あなたはこのたび応募されました論理構造化AI「コウゾウVer.1」のモニターキャンペーンに当選されました。
3ヶ月のモニターとなります。
3ヶ月の間、コウゾウを思う存分お使いください。そのうえで、使い勝手やリクエストをフィードバックいただくようお願いします。
なお、モニター期間におかれましては、SNSやメディア等を通じてコウゾウの存在を明かすことを禁止しております。
つきましては、公の場ではなく、あくまでもご家庭内の使用にとどめてい
ただくようお願いします。
詳細につきましては、添付の契約書をご覧ください。
そうだ。そういえば、そんなのに応募した記憶がうっすらと蘇ってきた。
「あなたの考えを構造的に整理できるAIロボットのモニター募集中!」という広告がSNSのタイムライン上に流れてきて、思わずクリックしてしまったのが始まりだった。
この4月で社会人2年目になった僕は、新人社員の後輩も迎えて、心機一転、頑張っていくつもりだった。しかしその気合は空回りして、早々に失態を犯してしまう。
依頼されていた会議の議事録をSlackで展開したところ、メンターである矢崎さんからダイレクトメッセージを通じてこんな指摘を受けてしまったのだ。
「山本さん、ちょっと待ってください。なんでこんな整理をしているんですか? 大事な営業方針の議論についてはどこに書いてあるんですか? その一方で、あまり議論をしていない数字報告の件がなぜこんな大きな項目で取り上げられているんでしょう???」
「?」の数は、矢崎さんの苛立ち度合いのバロメーターだ。本人はかなり感情を抑えた表現をしているらしいが、この「?」の連続が圧を与えていることに本人は気づいていない。言葉は丁寧だし、決して敬語を崩すことはないが、それだけに不気味な威圧感がある。
そして、僕はこの1年間、矢崎さんからのこの「?」の洗礼を受け続けてきたのだった。正直これは精神を蝕む。そして、ここで返信をしないと、「山本さん、これ、どういうつもりなんですか? 指導してきましたが、その内容を理解していないんですか?至急直してくれませんか???」というさらなる「?」地獄が待ち受けていることを知っている。
だからこそ、とにかく早めに対応しなくてはならない……。
一次対応としては「大変申し訳ありません。至急修正します」という2行の文章を送ればいいのだが、そのときの僕は精神力を使い果たしていて、レスポンスどころかSlackを立ち上げる気力すら残っていなかった。
そして、そんなとき僕はいつもSNSに現実逃避していたのだった。
ネコだ。そう、ネコは僕を癒してくれるのだ。
SNSは、僕のことをよく理解してくれている。アプリを開けば、僕のお気に入りのネコちゃんのショート動画が流れてきて、荒んだ気持ちを落ち着かせてくれる。
ふう……。ネコちゃんをさんざん見て一息ついた、そのときだった。見慣れない投稿が、僕の目に留まったのは。
そこには、「あなたの考えを構造的に整理できるAIロボットのモニター募集中!」という文字があった。
「あ、これは広告か……」
広告とわかれば普段はスルーするものだが、このときはなぜかここで手が止まった。
「考えを構造的に整理できるAIロボットだと……?」
僕の興味は、いつのまにかその広告へと移っていった。
気づけばそのサイトをクリックし、そしてモニター募集の申し込みをしていたのだ。
いつもの僕だったら、怪しくてそんなことはしないだろう。
しかし、そのときの自分は、精神的にちょっとやばい状態だったのだ。
そして、またSlackの着信音でふと我に返った。まずい、矢崎さんからのメッセージだ!
直観的にそう思った僕は、気力を振り絞ってメッセージを確認した。
そこには予想どおりの言葉が並んでいた。
「山本さん、メッセージ見てますよね??? あの議事録、どういうつもりで出したんですか??? 内容を確認して出したんですよね???」
僕は一気に現実に引き戻され、緊張のあまり痺れる手先に力を入れながら、返信を書いた。
「大変申し訳ありません。至急修正します」
それ以降、今日まであのモニターキャンペーンのことを思い出すことはなかった。
まさか当たるとは思ってなかったし、そもそも申し込んだことすら忘れていたのだ。
僕は、そんな過去の経緯を思い出し、このロボットを返送しようと思った。
こんなものを試している余裕はないし、そもそも機械オンチの僕に使いこなせるはずがない!
……と思ったのだが、目の前にあるロボットに、僕は好奇心が抑えられなかった。
どこか愛くるしさの残る、その形。
「これ、実際に動くのかな?」
僕はそのロボットをビニールから出し、おそるおそるスイッチを入れ、そしてWi-Fiに接続してみた。
そのロボットは、Wi-Fiを受信すると急に目をくるっと回転させ、おもむろに言葉を発した。
「Hello, welcome to KOZO world! I’m KOZO!」
クリス・ペプラー並みに深く渋い声の英語に、僕はびっくりした。
お腹にあるディスプレーを見ると、使用言語や声の質などが選べるらしい。
僕は日本語を選択し、声は小さい男の子に設定した。このビジュアルで、この渋い声はかなり違和感がある。
「こんにちは。はじめまして。僕はコウゾウです」
そのロボットは、小学生の男の子の声で話し始めた。
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「や、やあ。僕は山本隆。タカシだよ」
何を話したらいいかわからない僕は、とりあえずぎこちなく自己紹介した。
「タカシくんですね。よろしくお願いします」
「あ、ああ。よろしく」
しかし、このロボットは何をしてくれるのだろう?
説明書は同梱されているのだろうか? 箱の底を探そうとしているところに、コウゾウはまた言葉を発した。
「タカシくんの悩みは何ですか? お役に立ちます
よ?」
え……。そうだった。確かこのロボットは、「考えを構造的に整理してくれる」という触れ込みだった。
悩みか……。しかし、そんな真正面から聞かれると困ってしまう。
正直いえばメンターの矢崎さんを何とかしてほしいのだが、ロボットにそんなことを言っても仕方ないだろう。
「あ、コウゾウは、考えを構造的に整理してくれるんだよね? 僕はどうやらそれが超苦手みたいなんだよ。だから、考えを構造的に整理するための基本的な頭の使い方をわかりやすく教えてくれるかな?」
僕は、どうせ無理だろうと思いつつ、コウゾウがどれくらいのものかを確かめるためにも、そんなお題をまずは出してみた。
「わかりました。お安いご用です」
コウゾウは嬉しそうに微笑んだ。
こいつはかわいい!
相手がロボットだと思いつつも、僕はその反応だけで嬉しくなってしまった。
僕はそのときまで、コウゾウの力を知らなかった。このロボットはかわいいだけではなかったのだ。
続きは本書にてお楽しみください!