このバンドがすごい!2021(訳: anewhiteの音楽を聴いてくれ)
一生涯を音楽と、バンドと添い遂げようと誓う4人の若く小さな星に寄せて。
生きていれば人間関係や志向が合わなくて仕事をやめることがあるし、どんなに仲の良い友達でもほんの些細なズレで疎遠になることがある。
さして大きな立場や名前を持たず普通に生きている我々だってそうなのだから、同じメンバーで人前に立ち何年も何十年も同じ音楽を作っていくのは当然簡単じゃないだろう。
バンドなんて大層に名前が付いていたって個人の集合であることに変わりはなくて、中学校を卒業した瞬間にめっきり合わなくなる仲良しの友人グループと一緒だ。
ボーカル佐藤さん曰く、ドラムス鈴木さんはanewhiteをやめようとしたことがあるのだという。
それでも「バンドという器がなければ一緒になることもなかったかもしれない4人」が4人のままで、「一生涯続いていく、一生涯愛されるバンドになる」。
そんな夢の第一歩を見届けた。
渋谷WWWで開催されたanewhiteの初ワンマンライブ「一生涯」に行った。
結論から言うと、わたしに言えるのは「インディーズロックバンド舐めてましたごめんなさい」しかないのだけど、流石に良いものを観せてもらっておいて出す感想が謝罪だけというのも何なのでライブの様子を交えながらanewhiteの良さを、わたしの記事にしては珍しく人に伝えるつもりで書くことにする。
そう大きくない会場に客同士の間隔を空けた都合で一人ひとりの拍手の音が鮮明に聞こえる中、ギター、ベース、ドラムスの3人が先に、さらに少し間を空けてギターボーカルがステージに姿を現した。
用意された楽器をそれぞれに携えた彼らは鈴木さんのところへ集まると握り拳を合わせ、“初ワンマン”の緊張感と決意の入り混じった空気を漂わせた。
初ワンマンライブの1曲目を飾ったのは「氷菓」で、これはRO JACKという若手バンド向けのオーディションで優勝したときに演奏された曲……だったりするらしいんだけど、本当に残念なことにわたしは邦楽ロックシーンやらインディーズバンド事情に一切詳しくなくてこの辺のことをあまり把握してない。
まあとにかく彼らが今日こうしてワンマンライブの舞台に立つまでに磨いてきた愛用の武器、なのだと思っている。
当然というと言葉が悪いのだけど、お似合いというか、必然性を感じる1曲目だと思った。
ライブが始まって何より思ったのは、曲間と繋ぎが良いので飽きない……というか、無駄な思考の隙を与えない鋭さがあったこと。
わたしは今年になってフェスに行くようになったぐらいでそんなに多くのバンドのライブを観てきたわけではないのだけど、多分かなりこだわりがある方じゃないかと思う。
ボーカルの飲水タイムをドラムソロ〜セッションで繋ぐとか、曲終わりから間髪入れずに次の曲を始めるだとか、そういう工夫を頻繁に取り入れていて、特にライブ前半では2〜3曲がひとまとまりになっているようなセットリストの運びが印象的だった。
もうひとつ感じたのは「あ、この人たち、ロックバンドなんだ」ということ。
音源を聴いていると、儚い声のボーカルとまっすぐな音のギターやキーボードが特徴的な、落ち着いた……”バンド”というよりも”アーティスト”、という言葉の方が近いようにも思えるのだけど、“そういう魅せ方が得意な”バンド、というのが多分正しいのだと思う。
以前Twitterで「出演したライブハウスの店長にライブのときの熱量が足りないとよく言われた」みたいなことを書いているのを見て、「anewhiteに熱を求めるのが違うことない?この人たちはそういうのが売りのアーティストなんだろうか」と思っていたのだけど、その言葉をanewhiteなりに咀嚼して落とし込んだところに今日の彼らがいたように感じた(※わたしは今日以前のanewhiteのライブを知らないので偉そうにこんなことを言えた立場にはない。ただの想像)。
めちゃくちゃ熱の籠ったライブだった。
今日ライブを観るまでanewhiteの特徴はボーカルの声とやや文学的で難解な詞だと思っていたし間違っちゃいないと思うけど、それらをanewhiteの音楽たらしめているのは多分河田さんのギターなのでは、と思った。
ギターボーカルの佐藤さんの奏でる爽やかな音、儚さのある歌声に対して河田さんの歪んだギターが鋭さを出していて、繊細なメロディと歌詞を抱えるanewhiteに“ロックバンド”としてステージ上で立つための輪郭を与えているのが河田さんのギターだ。多分。
それとライブを観ていて印象的だったのはサビを歌い切ったタイミングなんかでよく佐藤さんが片足を上げた勢いで上手のベース日原さんの側に背中から寄っていくような動作をし、日原さんは佐藤さんに背を向ける格好でベースを弾く背中合わせの構図になっていたこと。並々ならぬ信頼を感じる。
基本的に人懐っこいポップスや大衆受けする邦楽ロック音楽は譜割りが“気持ち良く”なるように、聴いてふんわりと歌詞が理解できるように作られてると思ってるんだけどanewhiteってそういうのと真逆。
佐藤さんの書く詞は一切「聴いてわかるように」はなってなくて、それでも歌詞として成り立っている韻の踏み方とか、逆に譜割りの歪さやキリの悪さが言葉に乗った危うさだとか彼の歌う人の心の踏み切れない感じ、ひとことでは言えない複雑さみたいなものを引き立てている。音楽というより、作品としてめちゃくちゃ綺麗。
それでいてライブになると4人の音がまとまって掛かってくるので決意めいたものを感じられる。自然と身体も動くし、音源で聴くよりも“音楽”をしている。
ライブハウスも良かったけどいつかホールで聴きたい。アリーナよりもホールが良い。勝手なイメージだけど。
ライブ中盤のMCで来週27日に2nd Digital Single「バケトナ」がリリースされることが発表された。
「バケトナ」とはBanquet Night(佐藤さん曰く曲中では“婚礼”の意)と“お化けの隣”のふたつを掛けた言葉だそうで、「夏らしい曲です。もう夏も終わりかけだけど」と初披露。
かなりうろ覚えだけど、anewhiteらしいアップテンポで明るい曲だった印象。
そんな明るい曲の最後のサビで「僕は消えよう」みたいなことを歌っていたのが衝撃的で鮮烈に印象に残っている。配信が楽しみ。
終演に向かって駆け抜ける「metro」ではCメロの「誰かの言葉に惑わされてみるのも」で段々とテンポを落としMC。
佐藤さんが各メンバーへの想いを語り、良い感じのことを喋って後の「悪くない」というフレーズに繋げるのだけど、記憶力が貧相なのでMCで喋ってた内容半分忘れた。
「ベースの日原はすぐお腹壊す。ルーズなところはルーズだけどしっかりするとこはめっちゃしっかりしてて、この中の誰よりもバンドが好き。ベースが好き」みたいなこと言ってたのは覚えてる。
冒頭に触れた鈴木さんが以前anewhiteを辞めようとしていたことがあるというのもここだったと思う。
全体を総括して言ってもめちゃくちゃ良いライブだったし、始まった瞬間は自分が彼らと同年代というのもあって(1つ違いとかだったかな)応援する気持ちや逆に勇気付けられる気持ちが強かったのが、アンコールが終わる頃には普通にいつもライブに行っているのと同じように純粋な音楽体験として楽しんでいた。
それぐらいには想像以上に満足感のあるライブだった。
わたしはそもそもバンドのライブに行き始めたのが今年に入ってからで、それ以来メジャーアーティストのライブしか観たことがなかったのだけど、インディーズバンドのライブ完全に舐めてたなと猛省しています。
すみませんでした。
取り急ぎ謝罪の気持ちを込め、これを読んでくださっている方に3曲紹介してまとめとさせていただきます。
1. ソワレの街で
最新EP「劇場を抜けて」の恐らくリード曲の位置付けになっている曲。
anewhiteの得意な音楽ド真ん中だと思います。1Aの「閉じ込めた歓声の後は/部屋に漂う閑静が煩いね」とか落ちサビの「ミッドナイトな意図」とか、佐藤さんの得意な同音異義語やメロディに対する韻の踏み方とかが綺麗です。
2. 嫌いな花
本日のベストアクト。
良い意味でanewhiteっぽくないタイプの曲なのでこれをピックアップして紹介とするのはあまりよくないかもしれないけど、たった2分の中に佐藤さんらしい歌詞と譜割りと、「俺たちこういう音楽もできるんですよね」という強気な姿勢、他の曲にも通じる鮮やかで鋭い音が詰まっていて最高です。
根も葉もあることばかりじゃない
目にうつる全てを疑え この歌さえ
「根も葉もない」に対して「根も葉もある」と表現した上で「ことばかりじゃない」と造語の二重否定になった上に「目にうつる全てを疑え」と来るの、歌詞として完成されすぎてる。
そこに「この歌さえ」と続けるのはこのひとにしか書けない詞かもな……と思ったりします。
3. Op.87
2021/8/20現在2枚のEPがタワーレコード限定で全国流通していますが、そのどちらもインスト曲が収録されています。
1st EPのOp.87から夢現、2nd EPのマチネからLaundry Roomとインスト曲からの流れはどちらもめちゃくちゃ良いので気に入った方は是非通しで聴いていただきたいです。
アルバムにインストを入れてくるアーティストは外れないの法則。
余談)
「嫌いな花」と「メル」がめちゃくちゃ好きで聴きたいな〜と思って行ったんですが、嫌いな花は終盤戦の口火を切るキラーチューンになってたしメルはアンコールに演奏されたしで個人的にめちゃくちゃ爆上がりでした。最高。嫌いな花ライブバージョン音源か映像になりませんか?
「ここからが終盤戦です。嫌いな週刊誌を歌います……嫌いな花」ってMC最高すぎて脳味噌空になるかと思った。
おしまい