ナミオト
——よそ見をしていた。
そこは海であった。
すべての憂いを孕んだような
深い色した海であった。
月は どこかへ行ってしまって
シトリンの粒をちりばめたような
星影だけが背泳ぎをして
私は 愛をささやけなくなった。
麦藁帽子のかもめは退屈して眠ってしまって
私が隣でシナモンブレッドをかじっても
かもめは目を覚まさなかった
愛と雨との類似について話そうと思っていたのだが
もうビーチグラスを集める以外にすることがない
共に「 」を楽しもうじゃないか、と
アンモナイトは小さく笑ったのだが
その笑い声の波さえも
テトラポッドは堰き止めた
この世で「 」だけは
言語という記号に表してはならぬのだと
そう言うごとくに「 」を
テトラポッドは抱きしめて
つまり大気が静止する瞬間、
——私はよそ見をしていたのだった。
(2011/7/10)
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