水葬

線路の下にはせせらぎ
赤色の線路の下の小さな水路
音もなく空気を遮断する透明は小石を覆ってたゆたゆと

笹舟の似合うせせらぎ
その緑を夢に見る私
寺の奥に繋がる路から澄みきった過去が流れ落ちる

(するり と)

冷たい空へ
水がたゆたい
私はせせらぎに夢を見ている。

蝉時雨はかなかなと高く空へ昇る、
包み込むような緑の眩しさを
私に与えるように。
草いきれのむっとする息苦しささえ
いとおしくなる瞬間のために。

ざらり、と
足元でコンクリートの音がする、
唐突な青色が
冷たさの彼方へと反射するように。
長い とし・つき を
私に伝えるように。

祭りの日の笹船の上にしゃぼんが弾けるような
騒がしい静寂
せつせつと鳴き続けた油蝉の死を悼むような

(彼らは私の足元で恨めしそうに日暮を見つめている)(鎮魂歌を待ちながら)

線路を見れば、
赤茶けたいつもの色と、夏の色を木々に奪われた蝉の死骸、
瑞々しさを奪われたままの老いた色がそこに。

——渇いたままでいるぐらいならいっそ溺れてしまいたいのかもしれない

あさはかな夢
せせらぎは尚も流れ
老いた色が風に流されて、ふうわり、
水音も立てずに、無遠慮な水の中へ引きずり込まれて

ほんの刹那、せせらぎに溺れてしまった蝉時雨
静寂を感じる
彼への鎮魂歌のような一瞬の後に鳴き出す日暮

かんかんと鳴り始めた踏切の音を聞きながら
ああ
と、生ぬるいため息をつく

夏が終わるのだ

(2008/8/17)※2018と表記しておりましたが誤りです

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?