頂点から消滅へ:過去の歴史を繰り返さないために
さて、前回中国の水素戦略についてお話しました。
グリーン水素に特化し、かつ主要都市にパイプラインで水素を供給するという壮大な計画。今回、この隣国の野心は日本にとって何を意味するのかを「再エネ技術少史」をたどりながら考えてみましょう。
太陽光発電の始まり
再エネのスタートは太陽光発電でした。
太陽光発電が将来のグリーンエネルギーのカギだと目され始めた頃、世界の太陽光パネル市場を席巻していたのは日本企業でした。私が欧州に住んでいた2000年代初頭は「太陽光パネル=日本企業」の時代。パリから車でブラッセルに向かうと国境を越えて間もなくの場所にF1サーキットの広告ブリッジを何倍にもしたような巨大なシャープの太陽光パネルの広告ブリッジが遠くからでも目に入ってきます。そのたびにあー帰ってきたなあと思ったものです。
しかし、現在はどうでしょう。日本製太陽光パネルは世界市場から完全に姿を消してしまいました。世界市場を制覇しているのは中国製。
風力発電の始まり
風力発電施設もほぼ同じ道をたどりました。
風車はどれだけ効果的に風をとらえるかが勝負どころです。日本製風力タービンは世界最高水準の性能を誇っていました。
しかし、現在、日本メーカーは、一社残らず風力タービン製造から撤退してしまいました。もちろん世界において圧倒的な存在感を示しているのは中国製です。
グリーンエネルギー技術の悲しい「パターン」
初期の圧倒的リードがいつの間にか失われ果ては姿を消してしまう。これが日本のグリーンエネルギー技術の悲しい「パターン」と言ってもよいかもしれません。
中国の野心的水素戦略は水素関連技術についても同じことが繰り返されるのではないかとの懸念を抱かせるには十分なものでしょう。
日本は燃料電池自動車で世界に先行しました。風力で発電した電気で水を電気分解したグリーン水素を最初に街に配管し家庭は燃料電池で電気にして使ったのも日本です。水素コンロの商用化も弊社H2&DXが先鞭を切りました。
このように現在、日本は水素製造、利用技術の双方において世界の先端にいることは間違いありません。
水素技術のフロントライナーであり続けるには
どうすれば現在のリードを広げ日本が水素技術のフロントライナーであり続けられるのか。
カギは需要の拡大にあります。それも急拡大が必要です。政府の打ち出した熱差補助金(水素価格と化石燃料価格の差分を補助する制度)はその点で大きな意味を持っていると思います。
ただ、問題はプロジェクト化する際に水素の引き受け手(オフテイカー)がなかなか現れないこと。水素供給側の関心は急速に高まっているのですが・・・。
気づいたら電気分解技術から水素利用設備まで、日本勢が心血を注いだ技術が静かに消えてしまうことがないか心配でなりません。
次世代のグリーンエネルギーの柱の技術を失うことが何を意味するか。その負のインパクトは想像を超えるでしょう。そのことを広く日本の産業界に考えていただきだきたいと願います。
それではまた来月。
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