インサイド・アウト 第6話 記憶の欠片(3)
簡単に最低限のメイクを落とし、シャワーも浴びずに自分の部屋に戻ると、玄関の方から両親の帰ってくる音が聞こえた。二人分の足音、買い物袋の音、ひそひそと会話する声。そこに「ただいま」の声はない。二人の中ではすでに空気以下の存在になっているわたしの居場所がここではないのはわかっている。だけど仕方がない。他にどこへもいく当てはないのだから。
明かりを消して布団に入り、息を止めた。水槽の中で、亀がじっと息を潜めるかのように。存在感を消していれば、何も咎められることはない。言い争い