尾
早朝に妹と一緒に雪道を歩く
上を向けば青空なのにそこからチラチラチラチラと白いものが落ちて頬が冷たい
踏み出す一歩ごとに絶えずサクザクと柔い雪を踏む音がして白い世界にそれだけが存在する音みたいだった
妹は楽しそうに早足で
それじゃ滑って転ぶよって教えたのに雪の上でスキップができるかどうか試していて
案の定お尻から落下して
それでもゲラゲラ笑いながら同じ高さから音を出す
誰かの何かになるって楽しい?
わたしはそうでもないけれど、
あなたがどうだか知らないけれど
前に好きだったあのひとはどうなったの?
ほら、あの青いワンピースをくれたひと
優しかったと思ってる?
わたしはそうでもなかったと思うけれど
だって自分勝手にさよならを告げて自分勝手にまた繋げようとした
あなたはどこかへ行こうと必死だったのに
ひとりじゃどこにも行けないことぐらいずっとわかってたよね、だから誰かに縋ろうとして、だから本当は誰でもよかったんでしょ?
繋げて結んでそのまま引っ張って帰ってこれないようにしてくれるひとなら、誰でもよかったんでしょ?殴ったり叫んだり蹴飛ばしたり引き摺ったりあなたを凶弾しないひとなら誰でもよかったんでしょ?詳にいえはあなた自身を殺さない人。それは正常な世界にいれば可能なことであってそれを求めるということはあなたは正常じゃない場所にいたということでそれはつまりあなた自身が狂っていたということでしょう?ほらご覧なさいよ、あなたはふたりにはなれない。ひとりでこんなところ歩いてて、隣に誰かいてくれるの?繁殖できるか否かという問題もあなた自身が心からそれを望めないからでしょう?わたしの遺伝子を持った半分だけは誰かのクローンが必要だって思ってないでしょう?そう?本当に?そんなにあなたはあなた自身を殺しているくせに。
ゲラゲラ笑いながら
妹は走って行った
チラチラチラチラ降っていた雪が激しく吹雪いてきて前も後ろも空も白く暗い
静かな音のしない景色に妹だけが
笑う
花なんか育てられなかったでしょう?夢なんて努力しなけりゃ叶わないことくらい知っているくせに、努力したって叶うものじゃないなんて納得して学ぶことを怠って、何にもない人間になったのは全部あなた自身のせいじゃない?どこにも行けないって?どこにも行かなかったんでしょう?誰かの何かになった気になって、あなた自身は何もない空っぽのがらんどうのまま、そのお腹、何も入ってないんでしょう?空っぽ空っぽ楽しいね
妹はどんどん走って行って見えなくなって声も聞き取れなくなって
わたしは凍った前髪を指先で触りながら
中から妹が消えていくのを知って
どこにも居なくなった苦しみはどこへ辿り着くのだろうなんて
何にも見えなくなった静かな吹雪の中
家に帰る道は後ろだっけな なんて
呑気に阿呆のような顔をしている