トランプ次期政権の環境政策
トランプ次期政権の環境政策の輪郭が見えてきている。その重点施策は次のとおりだ。
1. パリ協定からの再離脱が実行される。COP29は先進国からの炭素基金への拠出が少なくとも総額3000億ドルとの決議がなされて閉幕した。米国がパリ協定から再離脱すれば、米国の拠出金がなくなることで炭素基金が細り、発展途上国の環境対策の拡充が遅れることになる。
2. 環境規制が緩和されてバイデン政権の下で進められてきた再生エネルギーへの転換にブレーキがかかり、化石燃料の増産に拍車がかかる。EVへの転換もスピードが遅くなる。PHVやHVに注目が集まる。
3. IRA(インフレ抑制法)のみなおしで補助金や税制優遇などによる60兆円の予算が削減される。
(ア) これまで米国製EV購入時に7500ドルの補助金が支払われていたが、これが廃止される。
(イ) 商用車EV販売リースに対する税額控除が廃止される。
(ウ) 住宅向け再エネ、クリーン発電への補助金が廃止される。
トランプ氏は温暖化ガスによる地球温暖化について懐疑的だ。従って化石燃料から再生エネルギーへの転換政策についての大幅な見直しがすすむことになる。
バイデン政権の下で抑制されてきた石炭やシェールガスの採掘は、「掘って掘って掘りまくれ!」の掛け声が後押しすることになる。
こうした化石燃料への再傾斜は同時に次のような二つの世界的な影響を引き起こすと考えられる。
1. エネルギー価格の低下をもたらすことで、企業コストを引き下げ、ガソリンをはじめとする消費者物価を押し下げ、結果的にインフレを抑制することにつながる。
2. 原油、天然ガスの増産によって原油と天然ガスの価格が引き下げられる。結果として化石燃料の輸出によって外貨を稼ぐ産油国のアラブ諸国、ロシアに大きなダメッジを与えることになる。
トランプ次期米国大統領の「掘って掘って掘りまくれ!」という叫びに、単なる「温暖化陰謀論」に対抗するだけでなく、このような意図も隠されているとしたら、彼はかなりの深謀遠慮の人物と言えるだろう。
ところで事態をそう簡単に理解し納得してはいられない。トランプ政権の中心にイーロン・マスクが存在している。
イーロンのミッションのビジョンは「EVへの世界的な転換を最も効果的に実現する」だったはずだ。そしてこのビジョンの背景にある彼のミッションは「持続可能なエネルギーへの世界への転換を加速する」だったはずだ。
トランプに擦り寄ったイーロンは変節したのか。あるいはトランプの力を利用して自身のビジョン実現を加速させようと考えているのか。多分変節してはいないと考えるのが妥当であろう。
イーロンはトランプ政権の中心で、政府効率化委員会のリーダーとして歳出の大幅な削減に努めることになっている。イーロンは政府効率化で1000兆円にも達する歳出に大鉈をふるい、300兆円もの削減を目指している。
歳出削減で生まれた余剰資金をどこに振り向けるか。イーロンは「EV&住宅用再エネ発電&蓄電システムという住宅用総合エネルギーシステム」の普及という構想をすでに完璧に設計しているのではないか。そして余剰資金の振り向け先はこの構想実現に向けられ、その結果として彼のミッション、ビジョンが現実のものとなるのではないだろうか。
トランプ政権のなkでのイーロン・マスクの動きから目が離せない状況が続く。