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タンゴレッスンから考える:「体育」と「スポーツ」文化の違い  

こんにちは、タンゴダンサーのGYUです。
長年、異国の文化アルゼンチンタンゴを踊り教えてきた経験から、日本とアルゼンチンの両国の身体文化の違いを肌で感じてきました。今日は、その違いの根源にある「体育」と「スポーツ」について、タンゴを通して深く掘り下げてみたいと思います。


1:タンゴレッスンに見る文化の違い

例えば、私のレッスンでは 「背筋を伸ばし、重心を低く保ちながら、1-2-3のカウントでステップを踏む」といった具合に、体の動きを細分化して形を教えがちです。またルールに厳しいです。

一方、アルゼンチン人の先生は「音楽を感じて、パートナーと会話するように踊りましょう」と、より感覚的な指導や生徒に考えさせる指導するなど、一人一人を伸ばす指導をします。 この違いは、タンゴに限らず、他のスポーツでも見られる現象です。

この違いは、タンゴに限らず、他のスポーツでも見られる現象です。なぜこのような違いが生まれるのでしょうか?

2:言葉の起源から見る文化の違い


「体育」
「スポーツ」、この二つの言葉の起源には興味深い違いがあります。


  • 体育:明治時代に作られた和製漢語。「体を育てる」という意味で、富国強兵政策を反映。

  • スポーツ:ラテン語の「deportare(デポルターレ)」が変化し、「楽しみ」を意味するように。



この語源の違いは、日本と欧米の身体文化の違いを端的に表しています。「体育」は国家のための身体づくり、「スポーツ」は個人の楽しみのための活動。ここに、集団と個人、義務と自由という対比が見えてきますね。

3:歴史が語る身体活動の多様性

日本
日本の歴史を紐解くと、古来より神事として相撲や貴族などの蹴鞠、武士として剣術などの独自な身体運動文化が存在していました。江戸時代には武士の間で「武芸」が盛んでした。
明治時代になると、欧米に追いつけ追い抜けの富国強兵政策とともに明治9年に「体育」として推し進められました。

一方、江戸時代の民衆の余興は踊りや祭りではないでしょうか?盆踊りや各地に残る舞、祭りでの神輿かつぎなどが、民衆の楽しみとしての身体活動だったのではないでしょうか。


室町時代の田植えの様子

欧州
欧州に目を向けると、古代ギリシャの「ギムナスティケー(γυμναστική)」という概念が見えてきます。古代ギリシャ人にとって、身体を鍛えることは精神を磨くことと同義でした。プラトンが「教育には音楽と体育が必要」と説いたのも、心と体のバランスを重視していたからです。そして ローマ時代には次第に健康維持や娯楽の要素が認識され、やがて「観るスポーツ」が発展していった。いわゆる『パンとサーカス』による民衆統治になった。

その後に階級社会が生んだスポーツ、19世紀のイギリスでは、階級によってスポーツが明確に区別されていました。


・貴族階級:乗馬、フェンシング、クリケットなどの「ジェントルマン・スポーツ」

・労働者階級:ボクシング、サッカーなど、より肉体的で直接的なスポーツ



興味深いのは、時代と共にこの境界線が薄れていったこと。サッカーは今や世界中で愛されていますし、かつては貴族のものだったテニスも幅広い層に親しまれています。

4:タンゴを通じて見る身体文化の融合

タンゴは酒場で生まれ、移民たちと娼婦によって育まれ、民衆に普及しました。その後、タンゴショーや世界選手権のコンテストによってさらに広がりを見せました。

この歴史は、タンゴが本質的に「スポーツ」的な要素、つまり楽しみや自己表現の側面を強く持っていることを示しています。しかし、日本でタンゴを教える際、私は無意識のうちに「体育」的なアプローチを取っていたのかもしれません。


5:これからの身体活動を考える

 現代はSNSやインターネットで世界がボーダレスになっています。この環境下で、私たちは異なる文化と歴史を理解し、取り入れていく必要性が高まっています。同時に、自国の文化を深く知ることで、他国の文化との違いがより鮮明に見えてくるのです。

タンゴを例に考えてみましょう。日本の「体育」的アプローチと、アルゼンチンの「スポーツ」的アプローチ。一見相反するように見えるこの二つの視点も、実は互いを補完し合う関係にあります。基礎技術の確実な習得と、音楽性や即興性の追求。この両者のバランスを取ることで、より豊かな踊りが生まれるのです。

これは単にタンゴだけの話ではありません。あらゆる身体活動、そして文化交流においても同じことが言えるでしょう。自国の文化を大切にしながら、他国の文化を尊重し、学び合う。そんな姿勢が、真のグローバル化につながるのではないでしょうか。

私は、タンゴを踊り、教える中で、「日本」と「世界」、そして「文化」の調和点を探り続けていきたいと思います。そして、この探求を通じて、皆さんとともにより豊かなタンゴライフ、ひいては文化生活を築いていければと願っています。

タンゴは、単なる踊りを超えた、文化と歴史の対話の場。その魅力を、より多くの人と分かち合えることを楽しみにしています。

Abrazo
GYU

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