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身体は知っている:四つ足動物の記憶
年を重ねるにつれ、体の痛みと向き合う機会が増えてきた。完全な解決策はないものの、より効率的な体の動かし方を模索する日々が続いている。
日頃から、呼吸法や緩やかな動作、重力を味方につけた力の抜き方など、様々な工夫を重ねてきた。しかし、ある日、ふと疑問が湧いた。
「どうすれば、力を使わずに立ち上がれるだろうか?」
我が家には"悪魔のソファー"と呼ぶ代物がある。その名の通り、一度腰を下ろすと、その心地よされ横たわってしまう魔性の家具だ。そこからの「効率的な立ち上がり方」を考えるうち、ある発見があった。
何かに寄りかかり、支点を移動させながら徐々に体を起こしていく――その動きが、まるで四足動物の歩みのようだったのだ。
この気づきは、かつて出会った野口三千三先生の「野口体操」の教えを思い起こさせた。先生の本には人間の遺伝子には進化の過程で獲得した多様な動きの記憶が刻まれているという。原生生物から脊椎動物に至るまで、その全ての動きを再現できるというのだ。
人類が二足歩行を始めてからの歴史は、生物進化の壮大な時間軸から見ればほんの一瞬に過ぎない。何億年もの間、我々の祖先は四足で大地を踏みしめてきた。その記憶は、必ずや私たちの身体のどこかに息づいているはずだ。
対して二足歩行は本質的に不安定で、脳は絶えずバランスの維持に奔走している。四足の姿勢を取り入れることで、このバラバラに動く体をより整然と操れるようになるのではないだろうか。
もちろん、現代社会で常に四足で行動することは現実的ではない。しかし、この太古の記憶を呼び覚ますことで、より自然で効率的な動きを取り戻せる可能性がある。それは痛みの軽減や、より洗練された体の使い方につながるかもしれない。
この探求は、単なる効率的な動きの追求にとどまらない。それは私たち人間の進化の歴史と、深く、静かにつながっている。日常の中で、時には四足動物としての記憶を呼び起こし、新たな動きを試みる。そんな小さな冒険が、私たちの身体との新たな対話を生み出すのかもしれない。
興味深いことに、この「四足の智恵」は日常生活の中にも潜んでいる。例えば、タンゴを踊る二人組は、まるで一匹の四足動物のようだ。
互いの体重を支え合い、調和のとれた動きを生み出す姿は、まさに進化の過程で培われた四足歩行の記憶を呼び覚ます方法でもある。
この視点は、単に効率的な動きを追求するだけでなく、他者との関係性や協調性についても新たな洞察を与えてくれる。個としての体の使い方から、他者との関わりの中での身体感覚へと、探求の範囲は広がっていく。
私たちの体は、進化の歴史を内包した驚くべき可能性の宝庫。
日々の小さな気づきや実践を通じて、その可能性を引き出していく。それは、単に痛みを和らげるだけでなく、より豊かな身体表現や人間関係の構築にもつながるかもしれない。
Abrazo
GYU