【本レビュー】ストーリーとしての競争戦略
楠木健さんの著書、「ストーリーとしての競争戦略」を読みました。
著者は一橋大学ビジネススクールに在籍する経営学者の方で、教鞭や執筆の活動はもちろん、ビジネス系のYoutube動画でも度々登場されています。
企業の優れた競争戦略はどうあるべきなのでしょうか?
戦略策定でよく耳にする「アクションリストの作成」「戦略法則の適用」「戦略ツールのテンプレート」「ベストプラクティスの利用」「シミュレーション」は、静止画的要素の羅列ではいけません。
「背景にある論理がしっかり構築された上で」「全体の動きと流れが生き生きと浮かび上がり」「思わず人に話したくなる面白い動画(ストーリー)」でなければならない、というのがこの本で著者の訴えたいことです。
比較的長い文章なのですが、それは複雑な企業戦略のストーリー性を分かりやすく説明するためだというのが読んでて分かります。
また、戦略に優れた実在する企業を例にとって説明しているため、より理解が深まるかと思います。
この本のポイントは、著者が戦略を考える上で定義している「戦略ストーリーの5C」です。
競争優位(Conpetitive Advantage)
コンセプト(Concept)
構成要素(Components)
クリティカル・コア(Critical Core)
一貫性(Consistency)
本書での例えが非常に分かりやすく、以下にサッカーでのプレーと「起承転結」で表すとこうなります↓
起(なぜサッカーをするのか):コンセプト(本質的な顧客価値の定義)
承(パス):構成要素(競合他社との違い、ポジショニングや組織能力)
転(キラーパス):クリティカル・コア(中核的な構成要素、独自性&一貫性の源泉)
結(シュート):競争優位(利益創出の最終的な論理)
ストーリーの評価基準(サッカー全体としての質):一貫性(構成要素をつなぐ因果論理)
これらの要素を押さえて戦略をストーリー立てて作り上げることで、長期的な利益をもたらし持続的な企業経営ができるようになる、と著者は言います。
昨今では、多くの企業で「なんのために存在するか」「どんな価値を生み出しているか」といった視点を持つことが重要視されており、パーパス経営、顧客価値に意識が向いてコンセプトについて考える機会が増えているのかなと思います。
ストーリーとしての競争戦略においてもそれはかなり大事な要素であることは間違いありません。
ただし、それ同等に筆者が大事なのは「キラーパス」だとしています。
「確かにキラーパスがあれば他社よりも秀でることができそうでいいな」と僕も思いましたが、単純な話ではありません。
他社との違いを作る上で、「コスト優位」「ニッチ戦略(無競争分野)」「高付加価値化」がポイントとなるものですが、それ自体が良いものと他社に認識されれば、すぐに模倣されてしまいます。
無競争分野といえど、儲かると分かればそこでビジネスが生まれやすくなってしまいますしね。。
そこで筆者が訴える大事なポイント、それは「バカなる」な構成要素をキラーパスにすること。
例えばあの有名なスタバのキラーパスは「直営店として経営すること」です。
同業界(カフェやファストフード)では、店舗拡大とコストダウンが容易にできることからフランチャイズ経営が一般的です。
コストがかさむ直営店経営とか、「バカみたい」と一見思われますが、これはスタバのコンセプト「サードプレイスの提供」を実現するためなのです。
フランチャイズだと各店舗が利益アップを目指して回転率の高いカフェを目指してしまうところ、直営店経営にすることで忙しいサラリーマンがゆっくり過ごせる場所としての雰囲気を保つことができるのです。
他の構成要素につながるこのキラーパスは、理由を聞くと「なるほど」と思わせてくれる、なので「バカなる」なのです。
この戦略要素は、フランチャイズ経営で回転率のよさを知っている競合他社からすると、切り替える動機にかけるどころかむしろ忌避してしまう。
よって誰も真似する戦略とならないため長期的な利益を持続的に生み出すことができる、という論理なのです。。
他の企業の事例も本書には詰まっており、それぞれ素晴らしい戦略ストーリーを構築してきた、ということが理解できました。。
あの有名な企業がこのような戦略で成功している、ということを知り、目から鱗な内容でした。
また何度も戻って読み直し、自分が今後企業を見る際の教科書にしていけたらいいなと思う、そんな一冊でした!