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怪談~北新地での奇妙な体験:午前3時の外国人少女~

 幸か不幸か、不肖は幽霊を見たことがありません。

 霊感が強いと自称する人にはたまに会います。
 ただ、嘘か本当か確かめようがないので、適当に聞き流すよりほかありません。

 そんな僕が数年前、異様な光景を目にしました。
 幽霊ではなく、生身の人間です。

 大阪・北新地かいわいで飲んでいた僕はタクシーで帰宅していました。淀屋橋付近から乗車し、土佐堀通りを東に向かっていました。

 車が北浜1丁目の交差点あたりを通っていたときです。

 ふと外を見ると、自転車が一台走っていました。大人用を器用に乗りこなす、小さな影が目につきました。

 午前3時ごろです。 
 乗っていたのは…。

 6歳くらいの、外国人の女の子でした。


 まったくの無表情。端正な顔立ちで、そのまま洋菓子の宣伝に出てきそうな、小さな女の子でした。

 一体こんな時間になぜ? 怖くないの? お父さんやお母さんは?

 泣きながら乗っている、とでもいうのなら「不和な家庭で夜中に飛びだしたのかな」と無理やり解釈もできないこともない。

 でも、ほぼ完全な無表情。
 友達の家に遊びに行く、といった無邪気な感じもない。本当に、本当に不思議でした。

 不肖 今の自転車、見ました?
 運転手さん はい、見ましたよ。
 不肖 外国人の女の子でしたよね。
 運転手さん そうでした。ア、いま右に曲がっていった。
 不肖 怖い!
 運転手さん 私も怖い!

 彼女は堺筋を平然と南下していき、そして姿を消しました。

 以来ずっと
「優しい家族の待つ、温かい家庭に帰って行ったのならいいが」
 と思っています。

 翌朝になって嫁にこの話をすると

「飲まずに電車で帰ってくれば、怖い思いもせんで済む」

 会話はそれきり終わりました。


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