わかりやすく解説! 「敵基地攻撃能力」ってなに?
どうも、暁風です。
いま、国会では「敵基地攻撃能力」の議論が進んでいますが、これがイマイチ分かりづらい。
なんかよく分かんないけど、字面からアブナイ臭いがする……と不安に思う人も少なくないと思います。
そんなわけで、この記事では敵基地攻撃能力について解説したいと思います。
敵基地攻撃能力が行使できる要件
まず敵基地攻撃能力を語る上で外せないのが、「武力行使の新三要件」。
その内容を以下に引用します。
難しそうな言葉だけれど、要は「日本または同盟国が敵に攻撃されて、そのせいで日本が滅びそうになったら少しだけ相手を攻撃して良いよ。」というものです。
つまり、敵基地攻撃能力では先制攻撃は出来ません。
(良くも悪くも相手国が日本/同盟国に一発目のミサイルを撃ち込むまでは攻撃出来ません。これは国際法〔国連憲章〕で決まっています。)
二発目のミサイルは敵基地攻撃能力で防げるか?
一発目のミサイルを発射前に防ぐことは国際法、倫理性の問題から難しいことはお分かりいただけたと思います。では、二発目以降のミサイルは敵基地攻撃によって防げるのでしょうか。
結論から言えば、これもかなり難しいと思います。
なぜなら、現代のミサイルは上の写真のように、トラックに載っているからです。
戦争前に大量のミサイル発射機を基地(駐屯地)から山の中や地下などに移動してしまえば、ちょっとやそっとじゃ見つかりません。
現在の技術では、天下のアメリカ軍でさえ発射された後に場所を探知するのがやっとだとされています。
敵基地攻撃能力の意義
ここまでを振り返ってみると、「敵基地攻撃能力ではミサイル攻撃を防げない」ことが分かります。
これでは敵基地攻撃能力を保有することに意味があるようには思えませんが、果たして本当にそうでしょうか。
もちろんそんなことはありません。
なぜならミサイルだけで攻撃が行われる訳ではないからです。
通常、戦争は 1.ミサイルで敵の即戦力(特に航空機)を大ざっぱに潰し、2.爆撃や敵機の迎撃によって制空権を確保し、3.航空機・軍艦が陸上部隊を支援しながら侵攻する。という流れで行われます。この手順を踏まないと、たとえ相手国の占領が行えたとしても、莫大な戦費が掛かり、死者も大量に出てしまうためです。
上記のセオリーに従うと、すぐに目的地を攻撃出来る一方で、爆撃用の爆弾に比べて高価なわりに爆薬の搭載量が少ないミサイルは、開戦冒頭真っ先に攻撃する必要がある防空資産(レーダーや迎撃ミサイル)や、部隊の展開に必要不可欠な軍事基地や指揮所、そこに電力を供給する発電所に対してしか用いる価値がありません。
急いで壊す必要の無い施設は、爆撃機や戦闘機に爆撃してもらったり、陸上部隊に砲撃させたりする方が効率的だからです。
そういうわけで、あくまで攻撃の主体は戦闘機だとか爆撃機などの「航空戦力」& 航空機に支援されながら(時には輸送されて)侵攻する陸上部隊となります。
言い方を変えれば、相手の航空機さえどうにか出来れば敵軍は上陸できないし、被害は最小限に収まるということです。具体的にいうなら、相手国滑走路や基地内の航空機を破壊してしまうことが有効です。
滑走路を破壊してしまえば航空機は飛び立てないし、燃料の補給すら出来ないので飛行中の航空機もそのうちガス欠で墜落してしまうでしょう。よって第二撃を防ぐことが出来ます。
ここに敵基地攻撃能力の意義が生まれます。
敵基地攻撃能力に関するFAQ
Q1.飛んでくる航空機を撃ち落とすのではダメなの?
A.日本は軍事大国に囲まれており、彼我の軍用機数の差は二倍以上とされます。単純に飛んでくる量が多すぎて対処しきれません。また、ミサイル防衛にも言えることですが迎撃ミサイルにはかなりの撃ち漏らしが発生します。敵基地攻撃で襲来する敵機の数を減らし、最後の砦である本土配備のミサイルで迎撃する。そのためには、どちらかでなく敵基地攻撃能力と、迎撃資産の両方が必要となります。
Q2.敵基地攻撃能力はアジアの軍拡競争を招くことにつながらない?
A.北朝鮮と中国、ロシアはアメリカをも射程に収めるミサイルを配備済みです。また、韓国は日本が開発中のミサイルとだいたい同じくらいの性能のミサイルを配備しており、インドと台湾も開発中です。いうならば、軍拡競争は既に始まっているのです。このような状況下で日本が敵基地攻撃能力を持たないということは「銃を構えた相手と丸腰で戦う」に等しい行為です。まず勝ち目はないです。相手国は日本のミサイルの届かない安全圏から長射程ミサイルを用いて防空網を破壊し、自衛隊を無力化するでしょう。
Q3.アメリカに何とかしてもらえないの?
A.前述の通り、基地は真っ先にミサイルの攻撃を受けます。よって 在日アメリカ軍はあまりアテに出来ません。アメリカ主力艦隊(空母含む) が日本にやってくるまでの時間稼ぎとして敵基地攻撃能力が必要となります。
Q4.肝心の敵基地攻撃用の戦力は確保できるの?
A.2018年に戦闘機に搭載する敵基地攻撃用のミサイルを導入を決定済みです。
また、開発中の12式地対艦誘導弾能力向上型(国産ミサイル)も2025年に完成します。このミサイルは人工衛星「みちびき」による相手国内での誘導が可能となる予定です。
Q5.先手で核ミサイル攻撃されたら意味ないのでは?
A.「米軍の核の傘」の中にいる日本を核攻撃するにはかなりの度胸が求められるでしょう。また、核兵器は現代の絶対的タブーです。一度でも使用すれば西側諸国からは本格的に「敵」扱いされ当該国は経済・軍事の両面で極めて厳しい立場に置かれることになるでしょう。
Q6.先手で原発を攻撃されたら意味ないのでは?
A.敵基地攻撃能力とは対地攻撃能力と同義ですので日本政府がどんな方針であれ、相手国は「原発を攻撃した場合、同じことやり返される可能性」を排除しきれません。よって、敵基地攻撃能力には原発攻撃を予防する効果があると言えるでしょう。
Q7.何で政府は「ミサイル防衛のため」という枕詞を付けるの?
A.素早く国民の理解を得るのが難しいと考えたからだと思います。
日米両政府は、台湾侵攻に神経を尖らせているようで、特に隣国の総選挙の年であり、同時に軍結成100周年となる「2027年」を危険視しているようです。もしも台湾有事となれば米台同盟〔米華相互防衛条約〕を結んでいる米国は参戦せざるを得ないし、米軍基地のある日本も巻き込まれます。それが嫌なら日米同盟〔日米安全保障条約〕を破棄しなければなりませんが、そうなればなったでアメリカ軍の核の傘や援軍は期待できなくなり、領土拡大を目指す隣国が、アメリカと戦う上での地政学的要衝に存在する「日本」を放っておくとは考えられません。
自衛隊はこのような一刻も無駄に出来ない状況下で、防衛遂行のカギとなる長射程ミサイルを出来るだけ早く配備するために「ミサイル防衛のため」という方便を用いているのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
いろいろな考え方があるとは思いますが、日本周辺の軍事的緊張が高まる中、敵基地攻撃能力の必要性は日に日に増しているのは確かです。日本が戦争に巻き込まれる可能性を「リアル」に考えなければならない時代に、突入しつつあるのではないでしょうか。