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「律儀な人」・・・不思議な話。夢で逢ったのは。



昨日、昔同じ会社で働いていた事務職の女性、Sさんから電話がかかってきた。

「昨夜、Tさんが夢に出てきたのよ」

Tさんというのは、会社の先輩のことである。

一昨年、脳出血で緊急入院し、言葉も発せず、目線も定まらない、
全く意思疎通が出来ない状態で、勿論食事などは出来ずに栄養はチューブで取っていた。

当初から医者は

「いつ逝っても不思議はない。覚悟はしていてください」

と話していた。

コロナ禍の真っ最中、新型コロナに院内感染した時には、

「流石にもう無理か」

と誰もが思ったが、治療がうまくいきコロナは完治。

その後も、少しずつ本当に少しずつ快方に向かい、
瞬きでイエス・ノーを示せるまでになり、奇跡の復活を期待したのだった。

そこに、Sさんからの電話である。


「昨夜、Tさんが夢に出てきたのよ」

その電話にどう答えていいかわからず、俺はとりあえず話を聞いた。

「私がTさんの病院にお見舞いに行こうとして、切符を買っている夢だったの。今時、切符なんておかしいと思うんだけど、その時は不思議に思わなくって、140円の切符を自販機から取り出して振り向くと、Tさんが立ってるのよ」

Sさんの声はかなり興奮気味だった。

「あら。Tさん。もう出歩いて良いの?って聞いたのよね。随分、顔色悪かったから。
そしたら、『ええ』って、答えにもならないような声を出したの。
聴き直そうと思ったら、二人の間を何人も通り過ぎていって、その間に
どこかへ行ったのか、すぐに見えなくなってしまったのよ。
ねえ。その後Tさんの容体はどうなの?」

『ああ。この人、色々と気を使ってくれる人だったな。挨拶に行きたいんだろうな、でもTさんを驚かさないか、気にしているんだ・・・』

私は大きく息を吐いてから答えた。

「実は、Tさんは数日前に容体が急変して亡くなったんです。
コロナ禍の影響で、親族の方と世話をしていた近しい人間だけで
葬儀もせずに荼毘に付すだけになったんです。Tさんを知っている人には、落ち着いてから連絡しようと思ったんですが、そちらに先に挨拶に行ったみたいですね」

実は、Tさんは数日前に容体が急変し、亡くなっていたのだ。

その後、電話の向こうで聞いたことも無いような驚きの声が上がり
大混乱したSさんに事情を話して、落ち着いてもらった。

そして、Sさんに改めて聞いた。

「Sさんも、亡くなってから何年でしたっけ?」

「え? 私? 何年くらいかしら・・・あ、Tさんが来たわ。手を振って深々と頭を下げてるわ。ありがとうね」

と、そこで目が覚めた。

「二人まとめてか・・・」

TさんとSさんは、どうやら再会できたようだ。

いずれにしても、、亡くなったTさんもSさんも、向こうに行っても義理堅いな、と感心したのであった。

                 おわり


このお話は、実際に私が聞かされた話を、個人が特定されないように要素を編集して、まとめたものです。

このように、亡くなってから夢に出てくる体験は、
私も体験していて、祖母が亡くなった後、初七日の夜だったと思います。
夢に祖母が出てきて、やはり無口で家の廊下に立っていたかと思うと、
何も言わず、振り向いて奥の方に歩いて行ったのでした。

その時は、何と言うか、少し怖かったような気がしましたが、
今となっては、夢とはいえ色々と聞いてみればよかった、と思っています。


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夢乃玉堂
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