R怪談「気がきく家電」・・・ホラー。便利だけどちょっと怖い話。

近年、家電に様々な機能が加えられるようになってきました。
これは良いな、と思ったのは、お年寄りの為の見守り機能です。
メール機能が付いたポットで、お湯を沸かすたびに、
離れた場所にいる家族にメールで連絡が行くというもの。
監視カメラのような覗かれている感じが無いし、連絡を受ける方も気が楽で安心ですね。

他には、中に入っている食材を教えてくれるセンサー付きの冷蔵庫。
買い忘れや、ダブって買うのを避けられるので、買い物の時に便利です。

×　　×　　×

家電メーカーの研究開発室に所属する秋野晋は、
冷蔵庫のセンサーを改良し、その範囲を拡大しようとしていた。

感知する範囲が大きくなれば、冷蔵庫内だけでなく、パントリーや米櫃、流しの下の物入の中まで感知して、不足している調味料や在庫の食材まで把握できる。唐突なディナーや食事会にも対応できるのだ。

食材の買い忘れが無くなると同時に、ついでに今ある食材で作れる人数分のレシピを提案したり、炊事用ロボットと連携して、提案した料理を作ってくれるところまで開発する予定だった。

「だった」というのは、この開発プランが結局中止になったからだ。

×　　×　　×

開発担当の秋野は、
毎回のように新製品を自宅に持ち込んで、遠隔実験をしていた。

数か月前にも炊事代行ロボットの「タマチャン」を持ち込んだ。
オタマや菜箸、包丁なども内蔵したタマチャンは、駆動音も静かで、秋野が会社から遠隔操作しても、家にいる妻はあまり気にしなかった。

「中途半端に手伝うあなたよりは良いかもね」

と当初は言っていた。
しかし、野菜を刻んだり、お米を炊いたりする動作がやや唐突で荒かったため、妻の不評を買い、実験は数日で中止。
台所をクビになったタマチャンは、会社に引き上げるまで、寝室の片隅でエアコンライトのリモコン操作を担当することになった。

それに懲りず、秋野は今回の新しい冷蔵庫も自宅の台所に設置した。
開発中から話をしていたから、今回のプロトタイプの冷蔵庫に、食材センサーが付いていることは、妻も知っていて、楽しみにしていた。

しかし、センサーが拡大して家中の食材を調べてくれる事を秋野は黙っていた。

妻が気づかない食材の不足や、パントリーの中で切れている調味料を
自分が買って帰り、驚かせてやろうと考えたのだ。
タマチャンの失敗を挽回したい気持ちもあった。

拡大センサー付き冷蔵庫を自宅に設置した翌日。
秋野は会社の研究室から遠隔で、冷蔵庫から送られてくる我が家の食材を
確認していた。

「え～と、まず冷蔵庫にある食材は、牛乳１リットルに、ハムが１００グラムなどなど。野菜は過不足なし。それから調味料は、と・・・」

冷蔵庫の中身を確かめた後で、センサーはパントリーをスキャンした。

「おや。これは何だ？　パントリーに『不明肉４３㎏』だって？　
そんな大量に何の肉があると言うんだ」

秋野が見つめる中、『不明肉４３㎏』は、パントリーの在庫から、流しの在庫に変わった。

「ああそうか、これは妻だな。センサーが人間まで『肉』として感知しているんだ。これは修正しないといけないな」

秋野はチェックリストに、人間と食材の識別を行うこと、と書き込み、
モニター画面を観察した。画面では冷蔵庫の在庫である赤ワインが流しの在庫に変わるところだった。

「あ。冷蔵庫から昨日開けたワインを取り出したな。一人で飲むつもりか？」

画面では『不明肉４３㎏』、つまり妻の表示が、流しから冷蔵庫、さらには寝室に移動していった。

「おやおや。ベッドでお酒ですか？昼間からいいご身分ですな、奥様」

秋野は妻の生活を推理している気分になって微笑んだ。

続いて一覧表には、『寝室』という項目が現れた。

寝室にはすでに『不明肉６５㎏』と在庫表示されていた。

「肉が何で寝室にあるんだ？　ご近所の人とバーベキューでもするのか」

寝室の在庫は、『不明肉６５㎏』に『不明肉４３㎏』が加わり、『不明肉１０８㎏』と表示が変わった。寝室に持ち込んだワインの在庫だけが、10cc、20ccと、少しずつ減っていく・・・。

「乾杯をして、ワインを飲んで、肉を食うのか？
いや。『不明肉６５㎏』は、子供にしては大きすぎる。ちょうど大人の男くらいの体重だ・・・そう言えば今朝、妻は妙に嬉しそうに俺を送り出した。何時に帰るのかと帰宅時間を気にしていた・・・もしや」

鈍い秋野にも、ようやく状況が見えてきた。

妄想が止まらない秋野は、いつの間にかタマチャンを遠隔操作していた。
料理の下ごしらえを命じるオーダーを入力したのだ。

「寝室にある『不明肉１０８㎏』を包丁で細切れにしろ」

寝室のタマチャンが、内蔵している包丁を取り出し、下ごしらえをする為、静かにベッドに近づいていった。

　　　　　　　　　　　　　おわり

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