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「後になって、その意味の大きさを知る出会いがある」・・・一年の計として。
沢山の出会いと運命の導きによって、大きく前進することが
出来る。
人生を振り返り、未来を見通そうとすると、
そんな事を思い浮かべる。
さて、この年はどうなる事か。
今回はそんな出会いについてのお話です。
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「時間まぶり」 by夢乃玉堂
「銀河の夢より、足もとの土だじゃ?」
青年は、その教師の語る難しい科学知識や
妄想のような天空の話が鼻について気にくわなかった。
「ありゃ、時間まぶりじゃ」
「時間まぶり」とは、退屈で暇をもてあましていることを指す。
夢や理想を語る事は、
寒さ厳しい農村では、現実を見ない虚ろな時間に思えたのだ。
青年が農学校を卒業して数年後、
その教師も農学校を辞めたことを聞いた。
教師は、実家の近くで実際に土に触れて作物を作る農家を始めていた。
教え子の何人かが、畑作業を手伝いに行ったと聞いても
青年は、
「また銀河の夢を話されるのがオチじゃ」
と言って、近づかなかった。
それどころか、収穫間際の白菜を
こっそり盗みに行ったりした。
『どうせ。わらすの遊びじゃ』
しかし、元教師は、わが身の事を顧みず、
病の時でも畑に立ち、
訪ねてくる農民の相談に乗り続けた。
数年後、青年の元に元教師の訃報が届いた。
無理がたたって体を壊したのだった。
知らせを聞いた青年は、
気がつくと、元教師の家の前に立っていた。
そこには、元教師が書いた伝言板があった。
「下の畑にいます。宮沢賢治」
青年は、悔恨の情に涙した。
学生時代、照れと意地が邪魔をして
素直に教えを請わなかったこと。
畑仕事を手伝わず、邪魔までしたこと。
全てを後悔し、一人泣き続けた。
しばらくして、
伝言板の文字が消えそうになるたび、
上から書きなぞって残そうとする青年の姿があった。
青年は言った。
「銀河の夢も足下の土も決して忘れません」
おわり
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