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「二つのプール」・・・怪談。水泳名門校で起こった事件とは。


県内有数の水泳名門校として知られる某私立高校には
新旧二つのプールがあった。

その使われていない古いプールに、ある寒い冬の朝、
水泳部員の遺体が横たわっているのが見つかった。
頭をプールの底にぶつけたらしく、流れ出た大量の血が水のないプールに溜まり赤く染めていた。

「彼は水泳の成績が伸びずに悩んでいた」

「部員同士の仲が悪く、いじめられていた」

などと噂する者もあったが、遺書も目撃者もなく、警察はプールサイドから
滑って落ちた事故だと結論付けた。
警察署長の息子が水泳部の次期キャプテン候補で、期待の星であることも
噂に拍車をかけたが、学年が変わると誰も口にしなくなった。

「これを機会に旧プールを取り壊して駐輪場を作りましょう。そもそも水泳部の活躍を期待して、最新の設備を取り入れた新しいプールがあるんだから、授業も部活もそちらで出来るでしょう」

新年度最初の職員会議でそう決まった。
誰もが不幸な出来事を断ち切りたかったのだ。

そして、まもなく初夏を迎えた。

授業に先行して水泳部の練習が始まる。
だが、誰も水に入ろうとはしない。

別のプールだと分かっていても気味が悪いのだろう。

「何を気にしているんだ。そんなことじゃ、
インターハイ出場は夢の又夢だぞ」

躊躇している部員たちに劇を飛ばし、
3年生のキャプテンがプールに飛び込んだ。

得意のクロール。早い、早い。さすが出場確実と言われる期待の星だ。

ところが見ていた部員たちが、途端から悲鳴のような声を上げ始めた。
プールの水が、泳ぐキャプテンの後ろから、なぜか赤く染まっていくのだ。

「キャプテン! 水が、水が!」

「早く上がってください。早く自ら出て!」

水音でキャプテンには聞こえない。部員たちはプールのゴール地点に集まり、声の出る限り、早く上がれと叫び続けるのだった。

プールの水が、全て真っ赤になった頃、キャプテンはゴールに泳ぎ着いた。
そして、上がろうとしたキャプテンの上体が水から出た途端、
再びプールサイドに悲鳴が上がった。

キャプテンの顔も体も、ミイラのように干からびていたのだ。

キャプテンは引きつったように上体を反らせて、そのまま真っ赤なプールの中に背中から倒れ込み、二度と浮かんでこなかった。

それ以来、新しいプールも使用禁止となり、その水泳名門校は二度とインターハイに出ることは無かった。

数年後、その高校は名称を変え、何事も無かったように生徒を迎え入れている。しかし毎年夏になると、新入生たちは不思議に思うという。

「なんでこんな立派なプールがあるのに、水泳の授業は他所の学校に遠征しなくっちゃいけないんだろう」

プールに張られたブルーシートの隙間から、今も赤い水がのぞいているという。

            おわり




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