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「将来は保証されているか」・・・超ショート怪談。長い付き合いの彼女をつれて訪れたのは。


郊外の占い師の館に行った理由はあまり覚えていない。
A子に誘われたのかもしれないし、
自分から行こうと言ったのかもしれない。

いずれにしても、その時俺は、もう5年も付き合っているA子との関係を
この先どうするべきか迷っていた。
というよりは、決断するきっかけが欲しかっただろう。

最近は、どこへ行っても以前ほど感動出来ない気がしていた。
おそらくA子も同じ気持ちだ。ときめきが無いのだ。

友人からよく当たると紹介されたその占い師の館は
どこにでもあるような、明るい一戸建てだった。
応接間に通され、しばらくたって現れた占い師には、
怪しい雰囲気が全くなかった。

白いポロシャツにチノパン、たった今まで農作業をしていたような恰好のままで占いは行われた。
占い師はテーブルの上にパッドを広げ、二人の生年月日と名前を打ち込むと
「うむ」と言ってから、こちらを見た。

「二人の未来は、間違いなく幸せだな」

その言葉を聞いて俺は明るい気持ちになった。
A子との将来について幸福を約束されることが
これ程嬉しく感じられるのが、驚きでもあった。

それから、占い師は二人の結婚生活がどれほど幸福に満ちているかを
事細かく話した。
互いに支え合い生涯愛し合う事、可愛い子供が生まれる事、その子供もやはり成功する事、老後は蓄えた資産で悠々自適に暮らせる事。

そして最後に、占い師はこう言った。

「私は、人の未来が全て分かるのです。
勿論自分の未来でも分かります。
そのお陰で、こんなに信用され、のんびりと暮らしているのです。
これからも多くの人を占って行きます。いつでも又お越しください」

俺は又来ます、と言ってA子と一緒に占い師の館を出た。

ポロシャツの占い師は、ご丁寧に門の外まで見送ってくれた。

私たちが次の角を曲がろうとした時、
館の前で手を振っていた占い師に向かって
自動車が猛スピードで突っ込んで来た。

俺たちは慌てて戻った。
物音を聞きつけた近所の人が、既に救急車を呼んでいたが、
もう占い師は息をしていなかった。

目の前で起こった悲劇に呆然としている俺の耳に
A子の呟きが聞こえて来た。

「やっぱり思った通りね。この人の言う事は当てにならないわ」

占い師は未来が見えていたのか、見えなかったのか。
見えなかったとしたら、俺たち二人の将来は・・・。

        おわり



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夢乃玉堂
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