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「麻田君、マネキンになり幽霊を知る」・・・学園祭の準備に明け暮れた高校時代。



『麻田君、マネキンになり幽霊を知る』


高校時代、麻田君のクラスは、学園祭でお化け屋敷をすることになり、
クラスメートの北岡君の家から古いマネキンを借りることになりました。

北岡君のお兄さんはブティックを経営していて、
倉庫に眠っている古いマネキン3体なら自由に使って良いと
言ってくれたのです。

少し遅い時間が良いと言うので、放課後少したってから
麻田君、北岡君、大野君の3人がマネキンを受け取りに行きました。

3体のマネキンを3人で一体ずつ運ぶ予定でしたが、
面倒見の良い北岡君のお兄さんが、

「もう日も暮れたし、歩いて運ぶのは大変だから、
俺が車で学校まで運んでやる。お前たちも一緒に乗っていけ」

と言ってくれたのです。

暗くなって不安だった麻田君たちは、そのご厚意に甘えることにしました。


お兄さんのワンボックス車は、荷物用の3人乗りで、
座席は前の一列のみ、後ろは全て平らな荷台になっていました。

座席にはドライバーのお兄さん、その隣に北岡君と、大野君が乗り、

後ろの荷台には、3体のマネキンと麻田君が乗って学校に向かいました。

「口から血を流してるみたいなメイクをしよう」
「胸に包丁が刺さっているみたいに出来ないかな」
「恨みを持って襲ってくる感じが良いな・・・」

などとお化け屋敷の内容で盛り上がっていると、運転していた北岡君のお兄さんが、

「本物の幽霊はそんなに派手じゃないんだよ」

と体験談を語り始めたのです。

「前に使ってた倉庫にマネキンを取りに行くと、
いつの間にか数が増えてるんだよ。変だな、と思って
見覚えのない白い顔した奴に近づいてみると、
マネキンの目がぎょろって動くんだ。
うわって声を出した途端に、そいつがす~って消えちまったんだよ」

「え~。それ怖いな~」

それをきっかけに車内は怪談大会になってしまいました。
座席に座っている友人たちは良いのですが、動かないマネキンと一緒にいる麻田君はちょっと薄気味悪く感じいたのです。

すると突然、お兄さんが声を上げました。

「ヤバイ。取り締まりだ。後ろの彼、横になってマネキンの振りをするんだ。絶対動くなよ!」

車は荷物用で、座席以外の荷台に人を乗せると定員オーバーの違反になるのです。

麻田君は、大急ぎでマネキンと同じような格好でポーズをとり、
荷台に寝ころびました。

赤いライトを振って車を止めた女性警察官が、
手にしたセンサーを運転席の窓から差し込んできました。

「酒気帯びの検査です。ご協力願います」

北岡君のお兄さんが、センサーにハ~っと息を吹きかけると
結果が出る数秒の間、女性警察官は車内を覗き込んでいました。

そして、何かが気になったのでしょうか。荷台に目を止めました。
座席の3人はマズいっと思い、麻田君が動かないことを祈ったそうです。
当の麻田君は、前で行われているやり取りを聞きながら必死に息を止めます。

すると女性警察官が、

「マネキンですか。ひぃ。ふぅ。みぃ。よぉ。いつつ。五体ですね」

というではありませんか、麻田君を入れてもマネキンは4体のはず。
座席の3人は驚いて後ろを振り返りました。

もっと驚いたのは麻田君です。

「マネキン以外のものが自分と一緒に寝ている!」

麻田君は、先ほどの怪談を思い出して急に怖くなってしまい、
うわあっと声を上げて起き上がってしまいました。

「やあ。やっぱり後ろにも人が乗っていましたね」

結局、北岡君のお兄さんは「定員外乗車違反」で切符を切られることに。

最後に反則切符を渡しながら女性警察官はこんなことを言いました。

「もしかすると4体目が人間かもしれないな、と思ったんですよ」

「え? 5体見えたんじゃないんですか?」

「いいえ。最初から4体でしたよ。ふふふ。この先もお気を付けて」

女性警察官は笑顔で手を振って見送りました。

麻田君は、簡単な事で動揺したことに後悔しました。

そして、その場所から学校まで責任を取って一人で歩いて行くことにしたのです。

でも、暗い夜道を歩いているうちに、たくさんの怖がらせ方を思いつき、
そのおかげで、麻田君たちのクラスのお化け屋敷は、
歴代で最も怖かったと大評判になったそうです。

転んでもただでは起きない、いや。寝ころんでも・・・ですかね。

                    おわり


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夢乃玉堂
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