「私を信じるな」・・・超ショート怪談。山道で迷った時に聞こえてきたのは。
以前、一人で釣りに行った帰り、とある山の中で迷子になった事がある。
それほど深い山ではなく、来る時もカーナビの案内で簡単に、目的の渓流にたどり着いたものだから、帰りも大丈夫だろうと、山の中の道を走っていたら、急に途中から画面上に道が表示されなくなってしまったのだ。
「困ったな。データが古かったのかな」
画面には車の現在位置を示す矢印だけが映っていて、地図の倍率を広範囲が見えるように変えてみても、かなり山深いところにいるのが分かるだけで、幹線道路に繋がる道は表示されない。
仕方なく、暗くなってしまった道をひたすら走っていると、
カーナビの画面に道が表示された。
「お。助かった。直ったのか」
カーナビは、くねくねと曲がった道の先に、
二股道がある事を示していた。
そして、その二股を左に曲がれ、と表示している。
私は安心して左のウィンカーを点滅させた。
ところが、次の瞬間、カーナビが奇妙な事を言い出したのだ。
「画面は左折を指示していますが、私を信じずに、右に曲がってください。私を信じてはいけない。あなたの行くべきところは、そちらではありません」
「え?なんだって?」
機械が答えるはずないのに、私は思わずカーナビに話しかけてしまった。それほど動転したのだ。
無理はないだろう? カーナビが自分を信じるな、なんて言うんだから。
どういう事だ? ってなるじゃないか。
自分が間違っていると言い出すカーナビなんて聞いたことがない。
そもそも、声と地図が違う方向を指示するなんて。どうなってるんだ。
地図は確かに「次の角を左に」と示している。
だがカーナビの無機質な音声は、「次を右に」と言っている。
おまけに「自分を信じてはいけない」だと、どうすりゃいいんだ。
私は、迷いながらもカーブでハンドルを切った・・・。
その結果・・・私は今も迷っている。
耳元で、あのカーナビの声を聞きながら。
「天国は空の上だと思われているけど、信じてはいけない。あなたの行くべきところは、そちらではありません」
ああ。私はどうすれば良いのだろう。このまま天と地の間で迷い続けるのであろうか。
おわり
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