「彼氏失格」・・・大きな愛を巡る小さな物語。
正月になると、親戚の子供たちが、本家に集まって来る。
そんな子供たちの近況を聞くのも、楽しみの一つだ。
年々生意気になって来る孫や姪たちの言葉に、驚きながらも楽しい瞬間だ。
とりあえず、今年も皆息災だった。
と言う訳で、今回は、集まった親戚のお話です。
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『彼氏失格』
小学一年生になったばかりの姪の美央は、
姉の家に遊びに行くたびに、決まって”彼氏”の写真を見せに来る。
この日も、リビングのテーブルに学校で作ったアルバムを広げ
遠足の時に撮ったという同級生の男の子を指差した。
「ユイ叔母さん。これがトオル君。美央の彼氏よ」
「あれ?彼氏は・・・確かコウタ君か、ヒロシ君じゃなかったっけ?」
「コウタ君は、ジャングルジムから落ちて泣いてて可哀そうだから、
一か月だけ彼氏にしたの。
ヒロシ君は、忘れ物をして先生に怒られてて可哀そうだったから、
一日だけ彼氏にしたの」
「一か月? 一日だけ? 彼氏をすぐ替えちゃうの?」
「う~ん。だって美央、モテるから仕方ないじゃない」
美央は困ったように腕を組んだ。
『それは、モテるじゃなくて、惚れっぽいと呼ぶぞ』
そう思った私は、美央の恋バナをさらに聞きたくなった。
「じゃあ。そのトオル君はいつから彼氏なの?」
「昨日。注射する時に泣いてたから、友達から彼氏に
格上げしてあげたの」
「へえ。なるほどね」
どうやら美央の彼氏になる資格は、『可哀そうな男の子』のようだ。
ある意味『博愛』だから、まあ良しとするか。
でも、そんな大きな愛の持ち主である美央だが、
気に入らない男には辛辣である。
「シンイチ君は、カイショ無しだから彼氏としては失格ね」
前回美央は、こう言って私の夫を振った。
シンイチは・・・つまり私の夫は、思いのほか傷ついたようだ。
「どうしてカイショ無しって思うのかな?」
真顔で訊いている。子供の言葉に動揺するんじゃないよ。
「だって、いつものんびりしてるから、
ユイ叔母ちゃんに苦労掛けてるでしょ。そういうのを
カイショ無しって言うのよって、ママが言ってたわッ」
美央は自慢げに語尾を上げた。
いいぞ、美央。我が姪よ、ナイスシュートだ。
しかし、夫はポイントを取り戻そうと焦り、
とんでもない、オウンゴールを決めた。
「そんな事ないよ。俺も苦労しているんだよ。
ユイ叔母ちゃんのために、
優しくて物わかりの良い旦那さんを、毎日頑張っているんだから」
ホホウ。物わかりの良い? 苦労? 頑張る? そうなんだ。へえ・・・
明日の晩酌のビールと、大好きなカラスミが
たった今、キャンセルになった事をシンイチはまだ知らない。
おわり
*加筆再録
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