「天井の声」・・・短い怪談
地方には、色々な話が残りますが、
この作品もそんな伝説から生まれたものです。
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「天井の声」 作・夢乃玉堂
旅芸人の一座が、古い荒寺で一夜過ごすことになった。
真夜中、うとうととしていると、突然天井から「食いたい、食いたい。魂食いたい」という声が聞こえた。
皆が慌てると、気の強い座長が、
「これは狐狸の類の悪戯だ。気にすることは無い。
おい。天井。魂を食うと言うが、この中にはお前に食わせるような
安い魂を持っている奴はおらんぞ」
と話すと、天井から
「だったら、座長の魂が食いたい」
と答えた。
途端に座長は震え上がって倒れてしまった。
どうしよう、と皆が慌てていると、一人の芸人が進み出た。
「あっしに任せてもらえませんか」
芸人は前に出ると天井に向かって言い出した。
「おい。天井の化け物。食いたい食いたいと言うが、
こっちには魂よりも旨い物があるぞ。
居間からその名前を言うから、欲しかったらキッチリ真似してみろ。
ちゃんと言えたら、皆の魂もくっつけて食わせてやる」
「おう」
「さあさ、今から取い出しますは、
てきてきに、てきするおんぼう、そうりんぼう。
そうたかにゅうどう、はりまのべっとう。
ちゃわんちゃうすの、ひきぎの、ひょこすけの飴なり。
こいつは本当に旨い物だ」
なんだと、
「てきてきにてきするおんぼうこうりんぼう・・・」
「違う!」
「敵的にてきして・・・」
「違う!」
「てきてきにてきするおこりんぼう。。。」
「ちが~う」
と最後に叫んだ途端。
どす~ん、と天井に穴が開いて白い影が落ちてきた。
長い尻尾を振り乱して、狐が逃げていったのだ。
ホッとした旅芸人たちは口々に感謝の思いを伝えました。
「おう。助かった。あんたよく物の怪を天井から追いだしたな。
「えやあ。アタシは噺家ですから、落とす話はお手の物です。
おわり
落語には、「寿限無」や「たらちね」という長い名前が出てくる話がありますが、その系列でしょうか。
ちなみに、
てきてきに、てきするおんぼう、そうりんぼう。
そうたかにゅうどう、はりまのべっとう。
ちゃわんちゃうすの、ひきぎの、ひょこすけの飴なり。
は、怪談・奇談本『聞書雨夜友』に出てくる名前、
敵々仁 敵須留御坊 蒼臨坊
惣高入道 播磨乃別当
茶碗茶臼乃 挽木之 飛与小助
を参考にしています。