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「シェアアーマー株式会社」・・・R怪談。誰もが扱える時代に。


昨今は、シェアブームである。
シェアハウスやシェアオフィス、カーシェアなど、そのジャンルは多岐に渡っている。

「武器をシェアしませんか?」

居酒屋で一人飲んでいるシュン(仮名)の隣りに、スーツを着たサラリーマン風の男が座ってきたのは、酔いもかなり回っていた頃だった。

「武器だって? 何の冗談だい。武器をシェアするのか、何の武器を」

「ほら、つい最近も隣町の企業ビルで、立てこもり事件があったのをご存じでしょう。こんな物騒なご時世では、いつ戦争やテロに巻き込まれるか分かりませんからね。備えあれば憂いなしですよ」

男は、シュンのコップにビールを注ぎ終わると名刺を差し出した。
名刺には『シェアアーマー株式会社・営業部 何某レイ(仮名)』と書かれていた。

レイは、先日地方都市で起こった立てこもり事件の事を話しだした。

「新興のIT会社でプログラムの盗作を疑った元従業員の立てこもり事件、ご存じでしょう。あの事件、表向きは警官が突入して、人質を解放したことになってますが、実は、わが社の会員様が、シェアした自動小銃を持って裏の駐車場から侵入し犯人を武装解除させた、と言うのが真相なんですよ」

シュンは、今朝読んだ週刊誌の「立てこもり事件、解決の謎と真相」という見出しを思い出した。

ビルのセキュリティシステムが解除されていた、犯人は床に寝そべり、警察の突入を待っていた、など不思議な噂の多い事件だった。

「お判りでしょう。今の時代、目には目をです。結局暴力には暴力で対抗するしかないのですよ」

『恐ろしいことを言う奴だな』とシュンは思ったが、
事件の事を思うと、セキュリティシステムや、見守りシステムなど、実際の暴力の前ではどうしようもないのが現実だ。

しかも、今国会で、新平和維持管理法が発布された。
名前は平和だが、実際は武器準備集合罪を過激にしたような内容だ。その法律は逆に人々に不安を与える結果になってしまった、と連日評論家はテレビで叫んでいた。だがもう遅い。評論家は「事後」に大声を出すが、「事前」には大人しい。

「あの法律で、逆に市民にも武器を持つ権利を。という声が上がりました。誰もが不安に思っている時代なんですよ。そこで、このシェアアーマーなんです」

レイは人懐っこそうに笑った。

「それで、どんな武器を売ってるんだ。拳銃や爆弾なんかできないだろう」

「いえ。買うんじゃありません。シェアするんです。
防衛軍が新法に合わせて、追加予算を求めているのをご存じですよね」

「ああ。世界情勢を鑑みて、と言う奴だな」

「ところが野党の反対にあった為に予算を確保できない。
そこで、民間における武器のシェア運用を提案したんです。
民間の一般人の家庭のセキュリティと、国防を同時に兼用できるように、自動小銃や、手りゅう弾を備えた移動式の倉庫を近くの駐車場などに常設しておきます。そしていざとなったら、契約している人が、その倉庫の中から武器を取り出して、自分たちの家族を守るというものなんです」

「なるほどね。普段は何でもない倉庫に武器をしのばせておいて、
非常時になると使うわけか」

俺は昔観たSFテレビシリーズを思い出した。
一見何でもないガソリンスタンドに、諜報部員が行って証明書を見せると、ガソリンタンクから、特別仕様の戦闘車が出てくる、という奴だ。

「本当にそんな事が可能なのか?」

シュンは詐欺を疑っている口調で聞いてみたが、
気持ちはすでに8割がた決まっていた。

「こちらが、実際に運用している倉庫の写真です」

レイが並べた写真には、
ごく普通の倉庫の中に並べられた、たくさんの武器が写っていた。

こんな写真を見ると、男はどうしても興味がわく。
シュンは少しだけ自宅で待っている妻の反応を想像した。

「変なもの契約しないでよ。これだから男子は」

と言う声が聞こえてくるようだった。

だが、それが逆に男子としての反抗心を招き、
シュンは黙って契約書にサインをした。

「ありがとうございます。では、ご案内いたします」

レイは会計を済ますとシュンを連れて、すぐ近くの駐車場に向かった。
駐車場の隅に、コンクリート造りの倉庫があった。

レイは、倉庫の脇にある扉をカギと暗証番号で開くと
シュンを中に招き入れた。

真っ暗な倉庫に明かりが点くと、中にはミリタリー雑誌で見かけたロケットランチャーや自動小銃、弾丸、手りゅう弾などが並んでいた。

思わず手に取ろうとするシュンをレイが止めた。

「ダメです。非常時以外は手を触れないように願います」

苦笑いするシュンに、レイは手に持っていたカギを渡した。

「こちらが鍵です。失くしたり、他の方に渡したりしないでくださいよ。ドアの暗証番号は、毎日契約したスマホに届きます。今日の番号は、もうそちらにも届いていると思いますよ」

俺は鍵を受け取り自分のスマホを確かめた。
確かに防衛省からのメールで、8桁の数字が届いている。

「では、私はこれで」

そう言ってレイは去って行った。
軍隊風の敬礼も何もなく、営業マンの挨拶のように深々と頭を下げて。
それが、なぜかシュンの心を安心させた。

ほっとした為だろうか、シュンはもう一杯飲みたくなった。
倉庫の世情を確認して、もう一度元の飲み屋に戻ると、
立て続けにビールを三杯飲み干した。

しばらくしてシュンの心に明らかな変化が出てきた。

「非常時のみ、と言ったが、見るだけなら大丈夫だろう」

シュンは、そそくさと飲み屋を出ると、駐車場の倉庫に向かった。

「シェアしているだけでも、お金は取られるんだ、触るくらいは大丈夫だろう」

駐車場についてからも、シュンの脳みそは言い訳をし続けた。

スマホに届いている暗証番号を入力し、カギを使ってドアを開けた。
ずらり並んだ武器の中で、漫画の凄腕スナイパーが使っているタイプの自動小銃を手に取って見た。
鈍い輝きがシュンの心つかんだ。

シュンは別の棚にある弾倉を掴むと、自動小銃に装てんした。

「撃たなければ良いだ。撃たなければ」

そう言いながらも、どうしようもない欲求が湧き上がってくる。

「撃ちたい」

シュンは息を止めて、引き金に指を添えた。

その途端、倉庫の中に警報音が鳴り響き、赤の回転灯が光った。

入り口のドアをけ破って、ドカドカと警官隊が飛び込んでくる。

「動くな! 武器を捨てろ!」

シュンはその場で取り押さえられ、手錠をかけられた。

「いや。違うんだ。使うつもりは無いんだ。持ってみたかっただけなんだよ。世界中に武器を持っている奴はいるだろう。
使わなければ罪にはならないじゃないか。
それと同じだよ、俺は持っていたかっただけなんだよ~」

「そうですか、そうですか」

必死に言い分するシュンを、諭すような声が聞こえた。
目の前に立っていたのは、レイだった。

「皆さん。そうおっしゃいます。でも平和を望む方は、そもそも武器に近づこうなんて思いません。武器を持ったら使ってしまう可能性のある人間を探し出すのが、このシェアアーマーシステムなんですよ」

これは、暴力行為をやる可能性のある者を捕まえるための囮の倉庫だったのか、後悔するシュンにレイが続けて言った。

「さあ。シュンさん。存分に武器を使わせてあげますよ。○○が良いですか、××が良いですか?」

レイはヨーロッパと中東の紛争地帯の名前を挙げた。

「いや違う。俺は武器を触ってみたかっただけで、
兵器になりたいわけじゃないんだ!
そんなところで兵器扱いされるために・・・」

窓の無いワゴン車に押し込められたシュンの声は
最後まで聞き取れなかった。

走り去るワゴン車を見送りながら、レイが呟いた。

「これで、今月のノルマもあと少し。
いくら志願者が減ってきたからって
こんな方法を使わないといけないなんて、この国も終わりだな」

レイは、再び獲物を探して、繁華街に消えていった。

                 おわり


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夢乃玉堂
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