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「どじょうすくい」・・・笑いを誘うしぐさのその向こうにあるものは。旅で見つけた物語。


真実よりも大切なものがある。

ざるを使ったその振り付けの中に砂鉄拾いのしぐさを見て取った瞬間から、
男は安来節に取り付かれた。

「安来節と鉄の流通には、何か関係があるに違いない」

自分の直感だけを信じて、いくつもの街道を歩き、いくつもの海岸線を巡った。

しかし、いつも手がかりは途中で消えうせ、繋がってはくれなかった。

人嫌い、と呼ばれながらも研究に没頭し、男は疲れ果てていた。

「自分は間違っていたのだろうか」

男の胸には疲労と不安だけが渦巻いていた。

男は、旅の始まりを見直そうと安来節を聞きに戻った。

伸びやかな歌声の後におかめとひょっとこが現れ、踊りが始まった。

こっけいなしぐさのドジョウすくい。

満面の笑顔で楽しむ観客の中で、男だけが孤独を感じていた。

観客が、ひときわ大きく笑ったときに男は悟った。

「笑いを固く考えることはない。ただ心から楽しめばいいのだ」

男の顔に明るさが戻り、自然と笑いがこみ上げてきた。

「笑って過ごせば福来る。あらえっささー」

おわり

かつて、安来節が日本中で大ブームになった時代がありました。
大小の宴会や演芸場などでも披露され、
その滑稽な踊りが受けたのです。

そして、ブームになると、様々な学者が安来節を研究したといいます。
そのルーツや、鉄の流通との関わり、様々な角度から
研究が行われましたが、実際踊る人々からは、
そのような背景の研究より、笑いを取る仕草の方が重要であったと
聞いたことがあります。

ただ笑いを楽しんで幸せになることが大切なのです。



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夢乃玉堂
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