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「心霊スポットのトンネルをロケした件」・・・「めざせ100怪!ラジオde怪談」の為の怪談。
「めざせ100怪!ラジオde怪談」は、「清原愛のGoing愛Way!」(SKYWAVE FM89.2(https://www.892fm.com/)にて毎週木曜日16:00~放送中)の番組内で100の怪談を特集する「怪談朗読特別企画」。
その為に用意した怪談を紹介していきます。
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「心霊スポットのトンネルをロケした件」
「ねえ。危険すぎる心霊スポットなんだって、面白そうだから行ってみようよ」
怪談好きで有名な三好尚子プロデューサーが
ウキウキしながら俺に声を掛けて来た。
関東近郊の山の中にある廃線跡のトンネルで
我が「驚愕!心霊スポットお百度参り」では、
初めて取り上げるが、オカルト好きの間では有名な場所だった。
噂によると、今までに何度もTVクルーが撮影に入っているが、
なぜか毎回ボツになっているという、曰く付きのトンネルだ。
「大丈夫だって。レポーターに亜子さんを連れて行けば問題ないからさ」
亜子さん、とは、心霊番組専門のタレントで、
恐怖に怯える表情に定評があるが、実際は全く心霊など信じていない。
肝が座っていて、どんなに恐ろしげな場所でも全く動揺せず、
撮影が終わると、心霊スポットに向かって
「大したことなかったな。バイバイちゃん」と気楽な挨拶をするという、
怖がりのスタッフには、ありがたいタレントである。
一週間後、亜子さん、カメラマン、三好プロデューサーと私の
4人が乗ったロケ車は、東京から数時間かけて問題のトンネルまで
やって来た。
日中に現場の周辺を撮影し、日が暮れるのを待って、
亜子さんにトンネルに入ってもらった。
「じゃあ。お願いします・・・3,2,1キュー!」
「ううう。怖いですね。ここが、何人もの行方不明者がいるという
噂のトンネルなんですよ~。見てください。もうすでに鳥肌が立ってます・・・」
亜子さんは、評判通りの怖がり様で、暗く湿気のこもったトンネル内を
恐る恐る歩いて行く。
怖がるのはカメラの前だけなので、
スタッフも余計な緊張感を持たずに済み、怖い絵作りに専念していた。
おかげで撮影は順調に進み、程なくしてトンネルの中間点に達した。
「あ、廃線になったレールですね。だいぶ埋もれてるけど、確かにレールだわ。
やだわ~怖いわ~。ひとつ、ふたつ・・・二本だけ。
レールが二本だけ撤去されずに残ってるんですね。
実は、このレールを撤去しようとすると、なぜか怪我人や
行方不明者が出て、中止になるらしいんですよ~」
亜子さんがしゃがみ込んで埋もれたレールの土を払ってみせた。
その途端、カメラに付けていた照明が消えた。
次いで私の持っていた懐中電灯の明かりも消え、
トンネルの中は真っ暗になった。
「どうしました。機材トラブルですか?
私なら、このままここに居ても大丈夫ですけど」
亜子さんの冷静な声がトンネルに響いた。
その冷静さがスタッフを安心させ、パニックを防いでくれる。
なるほど頼れるタレントだ。
「そこに居てください」
三好プロデューサーが答える。
「すみません。すぐに何とかします」
カメラマンが、闇の中で機材の回復を試みたが
何も見えない状態ではどうしようもない。
「壁伝いにトンネルの出口まで歩いてみますから
少し待っててください」
俺は暗闇の中、トンネルの壁を探った。
ひんやりと冷たい積み石の壁に手が触れた時、
微かな振動が感じられた。
見ると、トンネルの入り口から、
明かりが一つこちらに向かって来る。
「もう少しですから、その場所に居てください」
再び三好プロデューサーの声が聞こえた。
「ほ~い。動きません~」
亜子さんが陽気に答えた。明かりが近づいてくる。
近づく明かりを見ながらカメラマンが言った。
「あのプロデューサー、気が利くね。明かりが消えたのを見て、
予備の照明機材を持ってきてくれるんだ。これで撮影も続けられな」
言われて私は気が付いた。
三好プロデューサーは、直前になって、
「やっぱり怖いからアタシ入んない」
と言ってトンネルの外で待つことにしたはずだ。
「言い出しっぺなのにズルい」、と俺も怒ったじゃないか。
じゃあ、さっきから私の横で話しているのは誰だ。
ギャンギャンギャンギャン。
突然、金属の軋む音が、トンネルの中に反響した。
明かりが近づいてきた。随分高い位置にある。
地面よりも石造りの天井を明るく照らしている。
それに、全然揺れていない。
俺は右手を上げて照明の眩しい中心部を隠し、その下に目を凝らした。
文字板のようなものが見える・・・「D、5、1・・・D51。デゴイチ?」
「まさか、そんな・・・機関車が来るのか。みんな、脇に避けろ!」
軋む音にかき消されそうになる中、私は必死に叫んだ。
カメラマンが反対の壁まで転がるのが見えたが、
亜子さんは、トンネルのど真ん中に呆然と立ち尽くしていた。
「早く逃げろ!」
だが、亜子さんは動けない。
その足に地面から伸びた二本のレールが、しっかりと絡みついているのだ。
ギャンギャンギャンギャン。
蒸気機関車に惹かれた列車がものすごい勢いで通り過ぎ、
体が巻き込まれそうになった。
目を覆って風に耐えた数秒の後、
カメラの照明と懐中電灯が復活した。
トンネルは静寂に包まれ、機関車も列車もどこにも見えなかった。
俺はすぐに亜子さんのいたあたりを照らしてみたが、そこにAさんの姿はなく、
地面に埋もれかけた二本のレールが並んでいるだけだった。
そのまま亜子さんは行方不明になった。
警察に連絡をし事情を話したが、
違法撮影を咎められて、逃げたんだろう、と言われ
まともに取り合ってくれなかった。
翌朝、局に戻って撮影素材をチェックしていたカメラマンが俺を呼び出した。
「見てください。これ、トンネルの中の最後のコマなんですけど、
よく見てください。少し拡大しますよ」
カメラマンが機械を操作し、映像の一部が大写しになった。
トンネルの先、闇の中に、薄っすらと古い列車の客車らしいものが写っている。
「こ、これ・・・」
俺は息をのんだ。
その客車の最後尾の窓に、
恐怖の形相を浮かべた亜子さんの顔があった。
結局、このトンネルの心霊企画はボツになった。
おわり
「めざせ100怪!ラジオde怪談」「清原愛のGoing愛Way!」では、怪談の朗読を募集しています。
ご興味のある方は、Facebook「清原愛」か私のメッセージにご連絡ください。
よろしくお願いします。
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