日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト最終選考落選作「ホーム・マン」 振り返り

日本SF作家クラブの小さな小説コンテストという、文字通り日本SF作家クラブが講評を行っている短編小説コンテストに参加した。

知らない方は概要をリンク先で確認してもらうとして、今回それに応募して最終選考まで行ったものの落選した。審査員賞の候補にまで挙がってたそうなので、惜しすぎる。
下記が実作です。読んだことない人は読んでみましょう

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15306438

今回、制作にあたっての振り返りを反省と忘備録を兼ねてここに記しておく。

コンセプト

『朝テレビのスイッチを入れると、ニュースキャスターが「おはようございます。世界の終わりまであと七日になりました」と言う。』この共通一文を冒頭に入れるのが参加条件。
朝にテレビを誰かが見ているという状況から、次に書き出されるのは見ている人物の反応という事になりそう。初手で予想外の反応を繰り出せば、読者へのフックにもなるし良い話が書ける……ので、「癇癪を起こした男がガラスを蹴る」からの「ガラスが伸縮して男を弾き飛ばす」流れを思いついた。この時点では何でそうなったのかの設定は全く無い。
「ガラスが割れない」→「開かない」→「外へ出れない」からの連想で「主人公は家から出られない」の設定が導き出された。
さらに、滅亡七日前の報告を前にキレてるのだから、男が何かしら状況に深く関わっている可能性がある。家から出られないのに地球の存亡に関われる理由は何か?を考えると、家そのものに存亡の原因があるんだろう、とまで考えて本作の基本的な設定と概要が出来た。

すなわち、「現代社会におけるパーソナルスペース、同時に他人にとっての一番身近な異空間である【家】を舞台に行われるミクロな戦いがマクロな結末に直結する」というもの。コロナ禍での自粛生活で大なり小なり「家に籠もる」事に共感する人も多いだろうという社会性を反映。

10000字以下の縛りだったので、舞台を限定する事で描写や設定に割く字数を節約もできる。素直に世界の崩壊を描く方向性をやると競合が多いだろうし、やりやすいサスペンス方向に振り切る事にした。
イメージは「短編映画」。映画はそこそこ見る方だけどSF小説には殆ど手を出しておらず、そのゾーンで勝負するには厳しいと判断した。
ホーム・マンという題名は単に「家の中だけで戦うヒーロー」という意味で速攻で名付けた。シンプルな名前の方が逆に目立つかなという気持ちもあった。

次に主人公だが、軟禁状態に耐性がある=ニートが芋づる式で出てくる。となると、次に心配なのが特殊な状況下での生活で、ここで「穴」のシステムを思いついた。
注文を言えば、望むものが出てくるワームホール。字数に余裕があれば「穴」が実際どういう働きをするかの検証シーンを入れられたと思う(こういうやり取りの方がSFっぽいかも)。

敵となるゾラナズは「人間の精神に侵食する異次元生物」としたが、ここに関しては改めて見ると粗雑さを感じる。侵食するまで良いとして、仮に日数を伸ばした場合、精神は回復しても世界状況まで元に戻るものか?もっと直接的に「現実世界では細菌として出てくる」とか「死に至る謎の奇病」とした方が良かったかもしれない。「隕石」とか「怪物」として登場するのは外の世界も特殊状況下としてしまって、主人公との断絶が書かれないのでナシ。

実制作

短編長編いずれでも、話は冒頭で引き込むように作らないといけないと考えている。今回の場合、冒頭でも書いた通りガラスを蹴ったら猛反発で吹っ飛んだ、を第一のフックにした。その後はSF的なギミックとなる「穴」を登場させて、主人公とのやり取りを第二のフックにする。そして蜘蛛を倒すまでの一連の流れで主人公の立ち位置と大まかな状況設定を描写する。サスペンスに注力すると決めていたので、設定説明はできるだけ簡素にした。それでも初稿完成時は15000字もあった。

今作の一番の見せ所はやはり人型ゾラナズ(93日分)との戦いで、これが壮絶であればあるほどラストが際立つ。絶対に力を入れなければならない所だった。最序盤で伏線を張って、ラストで回収するのも好みで

ただ、ラストに関しては初案とは全く違うものとなっている。だいたい話を書く時はラストを決めてからやるけど、出力の際の手触りで路線変更は普通にありうる。
初案はラストまでの流れはほぼ同じだが、淋しさに囚われた主人公は「穴に頼めば自分にとって理想的な女性も作ってくれるのでは?」と寝室に向かう。しかし、この閉鎖された環境で他者と住む事の恐怖、自己肯定の低さが相まって、結局何もする事なく虚無感を抱えたまま自室に戻る……というもの。これはこれで味があって好みだが、実際途中まで書いてみて流れとして不適合と判断して決定稿のものとした。
審査員評価でもラストの良さを引き合いに出されていたので、路線変更は成功だったよう。

しかし正直、個人的に見せ場としたのは人型ゾラナズとの戦闘シーンで、それに関して感想で触れている人をあまり見なかったのはカテゴリーエラーを感じた。評価だと設定の雑さが指摘されていたので、こちらをある程度削って設定や心理描写を増やした方が良かったかもしれない。ここは今作を「短編映画」のコンセプトで書いた弊害が出ている。要は「小説をやる」って事から逃げてるので。

所感

ちゃんとした小説賞に参加した事がなかったので、腕試しと参加してみたが、かなり良い所まで行けたと思う。自慢ではないが、そもそも自分にはSF知識に関しては齧った程度の蓄えしかない。なので純粋に娯楽としてのストーリーテリングで勝負して、それについては十分な自信がついた。

さっきも言ったけど、映画はまぁまぁ見るのでSF映画の馴染みはあるが、SF小説となると殆ど教養と呼べるものはない。今回、設定の甘さへの言及は、そのまま蓄積の甘さの事を言われているんだろうと思う。
ただ、それでも受賞作候補には挙がっていたので、裏を返すとその欠点を埋めさえすれば最後の一皮を破れるのかもしれない。

いっぱい本を読んでいっぱい書きましょう、という結論って事で。

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