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UEFA Aライセンス 実技試験②個人戦術練習【コーチングログ#22】

UEFA Aライセンスは5つの実技試験とその他の課題やタスクをクリアすることで取得することができる長丁場のコースとなっている。

前回の記事では初めての実技試験の様子をまとめた。

そして今回は2回目の実技試験となる『個人戦術』をテーマにした練習を行ったのでその様子を振り返っていく。

要項

個人戦術練習では1つのトレーニングメニューの中で特定の選手たちにフォーカスしてコーチングを行う。1番難しいポイントはチーム全体で練習を進めながらも個人にフォーカスをしたコーチングをするというところである。
以下が実技試験の要項。
・1〜5人にターゲットを決めてコーチングを行う
・8〜18人でトレーニングメニューをプラン
・戦術的ピリオダイゼーションの採用(特にマッチデイから逆算したトレーニングの負荷にする)
・ゲームモデルに沿ったプレー原則を使ってトレーニングを行う
※ターゲット選手にフォーカスするがチームとしてプレー原則を落とし込めるようなオーガナイズにしなければならない。

練習メニュー

3vs3+6のポゼッション練習
テーマ: 3人の中盤を使ったビルドアップ
MD-4(スタミナ、連続したアクション)
23分=6分×3セット+5分のコーチング

・12人
・40×36ヤード
・ミニゴール×4、マネキン×2、ビブス×3色、コーン、ボール

3vs3+6

説明

・赤の3選手をターゲットにコーチング
・赤チームは緑(2CB)からパスをもらい反対側の緑へとパスを渡したら1点
・黄色(SB)は1タッチでプレイし、サイドラインをアップダウンして中盤3枚をサポート
・反対側の緑の選手はパスを受けたら横パスでもう一方のCBへとパスをする(例、LCB→RCB)
・青チームはボールを奪ったらボールサイドのピッチにある2つミニゴールのどちらかへゴールできたら1点
・ボールが外に出たらコーチから配球でリスタート

コンディション
・赤チームの3人のいずれかを使って反対側のCBへとボールを届けなければならない(緑→緑や緑→黄色→緑は禁止)
・赤チームは3人全員が同じハーフコートに入ることはできない
・黄色の選手は1タッチでプレイ

プログレッション
・2セット目からCBは1タッチ目でピッチ内にボールをコントロールした場合にのみピッチ内でプレイ可能(中盤で数的優位を作る)
・3セット目からSBも1タッチ目でピッチ内にボールをコントロールした場合にのみピッチ内でプレイ可能。ただし、ピッチ内に入れる人数は1人だけ(最大4vs3)

コーチングポイント

・認知(味方、相手、スペースを認知する)
・中盤の3人の立ち位置(同じライン上に立たない
・3人のローテーション(スペースを作る・使う)
・3人目のサポート(ボールが動いてる時に動き出す)
・レイオフ(CBの1タッチ目でスプリントして瞬間的にフリーになる)
・ネガティブトランジション

コーチングのディテール

まずは選手たちに練習の説明を戦術ボードを使って行った。戦術ボードを使わなくても良いのだが、ルールがかなり複雑なので視覚化できるものを使って説明。

戦術ボードでの説明
ボードには図と簡単にメニューの説明

戦術ボードでの説明を終えると実際にピッチ内でボールを使って歩きながら説明する『ウォークスルー』をして再度選手と一緒に確認。このウォークスルーでは選手たちが実際に体験することができるので、言葉で説明するよりも威力がある。百聞は一見にしかず。

ウォークスルーの様子
ウォークスルーの様子

今回のような選手の人数が多くない場合やピッチがそこまで大きくない場合には、時間を省略するためにボードを使わずにピッチで練習の説明をした方が早いかもしれない。しかし、ピッチが大きかったり選手の人数が増えたりして練習の全体像が見えづらい時には戦術ボードの使用は効果的だ。

その他にもコーンでポジションの説明をしたり、狭いスケールのミニピッチに選手を立たせて説明することも有効なので、ぜひ試してみてほしい。

そして、実際に練習を行い起こった事象に対してコーチングで改善、改良を行う。

・中盤3人の立ち位置

下の場面ではピンクチーム(オフェンス)の選手が全員ボールサイドのハーフコートにいてピッチを広く使えてないのでスペースがない状況になっている。

ピンクの3人がハーフコートでプレイしている

こういった時にはフリーズをかけて選手たちに「今どのような状況でプレイしているのか」を投げかけてスペースの認知を促す。まずは問題を認識しているか。しているのであれば、どうしたら問題解決できるのかを聞き、していないのであれば「スペースはどこにあるか」、「相手は守りやすいと思うか」などの質問を投げかけてどのような問題があるのかを理解させる。

・動き出しのタイミング

下の場面ではピッチ右手前の白いビブスの選手から奥側の白いビブスの選手へのパスが出た場面(CB→CBの横パス)。

手前から奥の白いビブスの選手へとパス
奥の白い選手がボールを受けた時にピンク(オフェンス)の選手たちはマークされていてパスを受けることが難しい。
更にピンクの選手3人が1つのライン上に立っており被ってしまっている状況となっている。
そしてCB(白)から中盤(ピンク)へのパスをカットされてしまった。

こういった解決が必要な重要な現象が起きた時には積極的に介入して修正する。特に言葉だけで修正するのではなくデモンストレーションを入れて『見せる』ことや『選手にやらせる』ことが重要となる。

動き出しのタイミングのデモンストレーション

そして、ボールから離れている選手に対してもコーチングを行い、全てのターゲット選手に影響を与えることが大切だ。

ボールから1番遠いピンクの選手に対してどのようにサポートできるかをコーチング

・個人戦術

特に今回の練習ではターゲット選手の個人戦術のディテールが重要となる。例えば、下の場面でボールの受け方が良かったのでハイライト。

ピッチ左側のハーフでピンク色の選手がボールを持って際に反対側のハーフコートにいるピンクの選手がバックステップを踏みながらマーカーの視界から消える
バックステップで自分の背後にあるスペースへと移動したことで、縦パスが入った時に1stタッチでラインを越えることができる。
遠い方の足を使って1stタッチで前を向き、前方へと展開することができた。

そして、このような良いプレーが起きた時には褒めて良いプレーを強調したり、時にはフリーズをかけて何が良かったのかを全体で確認する作業も有効となる。フリーズの多くは改善が必要な時に使われるが、良いプレーの例をデモンストレーションを入れて見せることも効果的だ。

・中盤3枚の周りの選手との関わり

このメニューではプログレッションで「CB(白のビブス)やSB(青のビブス)がピッチ内に1人だけ入ることができる」というルールが追加される。

これによって中盤3枚がどのように周りの選手と関わるかも重要になってくる。

例えば、下の場面ではピッチの奥側でCBからSBへとパスが入った時にボールを受けたSBが1stタッチでピッチ内に入り4vs3の状況を使った。

CB→SB
SBが1stタッチでピッチ内に侵入した時に1人のディフェンス(黄色)がSBへとプレスに出た。そのディフェンスのプレスを認知して奥側のピンクは外に流れてパスコースを作る。
SBとCMで2vs1の局面を作ってプレスを打開した。

このように味方の動きや相手の動きを認知して適切なサポートをすることも中盤の選手にとって重要なオフザボールの動きである。

感想とリフレクション

練習のオーガナイズやコンディションは自分が狙っていた現象を引き出すことができたので、非常に良かったように思う。今回のメニューはポジショナルの要素も入れたことで、特に中盤の3枚(ターゲット選手)は試合に近い感覚でプレーをすることができたのではないかと思う。

一方で「チームとしての練習をしながらもターゲット選手にフォーカスする」というコーチングは自分にとってはチャレンジなものだった。どれくらいターゲット選手以外の選手たちにコーチングをするべきなのか、どのようにチーム全体としてプレー原則を落とし込むかという部分では塩梅が難しかったのが正直なところである。

ターゲット選手たちにはサポートの仕方や動き出しのタイミング、ユニットとしての振る舞いや個人戦術のところまで触れることができた。強いて言えば技術的なディテールをもう少しコーチングやフリーズの時に抑えることができていれば包括的なコーチングになっていたのではないかと思う。

結果と評価

結果は10点中8点の評価をいただき見事に個人戦術練習の実技試験を突破することができた。

これで残りの3つの試験で80点のうち58点を取ることができれば実技試験は合格となる。

結果の詳細を見てみると、やはりタイムマネジメントのところでスコアが低くなっていた。

結果の詳細
練習時間の詳細

特にボールローリングタイム(実際にボールを使ってプレーしている時間)が62.53%と目安とされている70%に届いていない。セット間のフィードバックの長さとウォークスルーに時間がかかってしまったことでボールローリングタイムが短くなってしまった。次回はフィードバックを簡潔にまとめることと、予めフィードバックにかかる時間を多めにとっておくことで、タイムマネジメントの改善を図っていきたい。

また、タイムマネジメントの他に「相手を上手くマネジメントできていたか?」という評価項目のとこで点数が低くなっていた。確かに、ターゲット選手に向けて基本的にコーチングを行っていたが、ターゲット選手たちがよりチャレンジできる練習にするためには相手(このメニューでのディフェンス)に対しても多少のコーチングを行い、適切な難易度で練習が進んでいくようにしなければいけなかったかもしれない。

今回は普段の練習ではあまり行い個人戦術にフォーカスしたテーマで、コーチング方法が手探りだったため自分にとってチャレンジングな内容だったが、無事に終えることができた。人に練習を見てもらいフィードバックを貰う機会というのは貴重なので、これらのフィードバックを参考にして日頃の練習でもコーチングの影響力を高めていければと思う。

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Gyo Kimura
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