アジアの舞台で戦うということ【ACL準決勝】全北現代モータースvs浦和レッズ
準々決勝でタイのBGパトゥムに快勝して準決勝に勝ち上がったレッズは韓国の全北現代モータースと対戦した。
全北は準々決勝でヴィッセル神戸と対戦して、延長戦にもつれ込んだが、3-1で勝利して準決勝に勝ち上がってきた。
レッズは全北現代とは過去に4度対戦をしていて、レッズの1分3敗と大きく負け越している。難敵を"中立地"埼玉スタジアムに迎え入れ、決勝進出を目指した。
マッチレポート
スタメン
試合内容
最初のシュートはレッズ。2分に右サイドからモーベルグが酒井とのワンツーで抜け出してシュートを放つがGKが弾いてセーブ。10分、モーベルグが素早くスローイングを行い、インナーラップで上がってきた酒井にスルーパス、酒井がダイレクトで上げた低いクロスに松尾が飛び込みレッズが先制に成功、1-0。18分に全北はこぼれ球を拾って97番がシュートを放つものショルツがブロック。23分に95番が右サイドからえぐってPA内に侵入したところで大畑が体を寄せて対応、95番が倒れるが笛は鳴らず。30分にレッズは小泉からライン間でパスを受けた伊藤がミドルシュートを放つも全北GKがセーブ。37分に全北はカウンターから途中出場の11番がキープしてクロス、最後は21番がシュートを放つがゴールの上に外れる。39分にレッズは小泉からパスを受けた松尾が右足を振り抜くがゴール左に外れる。42分に全北はFKから4番の鋭い折り返しを岩波が反応して間一髪でクリア。前半はレッズの1点リードで折り返す。
後半から全北は29番を下げて13番を投入。51分に全北は左サイドから11番がカットインしてスルーパス、PA内でパスを受けた21番が大畑に倒されてPKの判定に。VARが入るも判定は覆らずに、8番がこのPKを沈めて全北が同点に追いつく。58分にレッズはモーベルグがカットインから鋭いシュートを放つもGKが弾いて得点に至らず。59分に全北はカウンターから11番が高速スピードでレッズ陣内まで運びラストパス、間一髪のところで小泉がカットしてピンチを逃れる。65分にレッズはモーベルグからのスルーパスを全北4番がクリアミスするもGKが落ち着いてCKに逃げる。レッズは78分に大畑、小泉、松尾を下げて、明本、江坂、ユンカーを投入し勝負に出る。直後の79分に全北はカウンターから21番が右足を振り抜くがゴール左に外れる。81分にレッズは江坂がクイックリスタートをし大久保へパス、大久保からのスルーパスからユンカーが抜け出しシュートを放つもゴールの上に外れる。89分には岩波の背後へのボールにユンカーが抜け出しラストパス、モーベルグが左足で狙うが吹かしてしまう。90+3分には明本のクロスにユンカーが触り、こぼれ球を江坂がボレーシュートを放つもゴールの上に外れる。90+4分にはレッズがカウンターからユンカーがシュート、GKが弾いてゴールとはならず。90+5分にはレッズは決定機が続く。岩波、江坂、ユンカー、再び江坂など再三のシュートもゴールには至らず延長戦に突入。
延長戦はレッズペース。100分にモーベルグのクロスに江坂が飛び込むが足にヒットせず。延長後半の110分には酒井のドリブル突破からのクロスに江坂が合わせるが枠を捉えられず。114分に全北は左サイドから23番が11番とのワンツーからクロス、ファーサイドで7番の折り返したボールを途中出場の27番が狙うがショルツがシュートブロック。直後の115分にショートCKから14番のクロスに7番がニアで合わせて全北が逆転する。119分にレッズは右サイドでモーベルグのキープから酒井がオーバーラップしクロス、跳ね返されたボールを大久保が蹴り込み、明本がヘディングシュート、GKがセーブするも最後はユンカーが詰めて、レッズが土壇場で同点に追いつく。延長戦でも決着つかずPK戦にもつれ込む。
PK戦は全北が先行、レッズが後攻となる。サポーターのプレッシャーも影響し全北は4人のうち3人が失敗。レッズはショルツ、ユンカーが決めて、モーベルグが失敗したが、最後は江坂がしっかりと決めてPKスコア3-1でレッズが勝利。来年2月に行われる決勝戦への切符を手にした。
試合結果
AFCチャンピオンズリーグ2022 ノックアウトステージ 準決勝
2022年8月25日(木)19:30・埼玉スタジアム2〇〇2
全北現代モータースFC 2-2(前半0-1、後半1-0、延長前半0-0、延長後半1-1)PK 1-3 浦和レッズ
得点者 11分 松尾佑介、55分 ペク スンホ(全北)、116分 ハン ギョウォン(全北)、120分 キャスパーユンカー
入場者数 23,277人
マッチレビュー
全北の魂胆
全北はレッズのボール保持時は基本的に4-4-2(4-2-3-1)のブロックを組んで守ってきた。そして2トップが岩尾を挟み込むようにしたところからCBにジワリジワリと寄せていく。全北の魂胆はレッズの配給役である岩尾を潰してしまえば、脅威は減るという考えだったのだろう。きっと岩尾を使われてブロックの内側に侵入されるよりは、CBに2トップの脇から運ばれる方がマシということだろう。特に、ショルツは運び上がることが上手いが岩波はあまり運び上がることを得意としていないから、ショルツの運び出しを警戒していればレッズのビルドアップは機能不全に陥るという魂胆だったのではないだろうか。
そんな全北の守備に対してしっかりとボールを動かしながら機能不全に陥らなかったことに関してはレッズの進化を感じられた。
レッズは監視させれている岩尾を飛ばした縦パスを使ってライン超えていき前進した。レッズは岩尾を消してくるならと、CB間で幅を取り、主に警戒の薄い岩波から多くの縦パスを通した。12:45は2トップの背後に関根が絞ってきて縦パスを引き出した。
そしてアタッキングサードに侵入するとレッズのストロングポイントである、右サイドの連動で崩しにかかった。13:48では右サイドのトライアングルで角度をつけることで相手のブロック内に侵入してチャンスに繋がりそうな場面を作った。レッズの右サイドが猛威を振るっている理由として、ボールが動く度に各選手がアクションを起こせるからだろう。特に13:48こ の場面ではパスを出してから止まっていた選手がおらず、パスの後に連続して背後へのアクションを取ったことだ。
残念ながら小泉のパスは繋がらなかったが、繋がっていれば大きなゴールチャンスだっただろう。右サイドの酒井、伊藤、モーベルグのトライアングルはこの大会で鋭さが増したレッズの武器だろう。
24:28はレッズがゲームの主導権を握っている場面があった。レッズのゴールキックで最終ラインでパスを繋ぎながら、全北がボールホルダーに圧力をかけるためにボランチを岩尾まで前に飛び出させた。その瞬間に岩波は伊藤がフリーになったことを認識してら岩尾を飛ばしたパスを伊藤に繋ぎ全北のハイプレスを無効化した。
前プレに対して飛ばしたパスでひっくり返すことができるようになると、全北は撤退せざる負えなくなり、ゲームの主導権を握ることができる。
ACLに出てくるチーム
・確かな技術
一方で全北も素晴らしいクオリティのサッカーを見せてきた。韓国サッカーを体現する球際の強さは粘り強い守備は健在で、レッズの選手とのデュエルの部分では全体的に全北が上回っていただろう。韓国勢と対戦していると球際のストロングを前面に押し出して、圧力と勢いでゲームの主導権を握ろうとするチームが多いのだが、全北は球際の強さにプラスしてしっかりとレッズのプレスを回避してボール保持できるだけの確かな技術も持っていた。
25:39ではレッズ自慢の小泉×松尾ペアのプレスで圧力をかけたが、全北は角度をつけてレッズのラインを超えていった。
今までではあれだけプレッシャーを与えていたら、プレッシャーを嫌って蹴ってくれるチームが多かったが、全北はフリーの選手を認識してボールを繋いできた。特に、ボランチが前に飛び出してプレスをかけるのが遅れる場面が何回かあり、伊藤と岩尾はしっかり寄せきらないと繋いでくるチームだと感じたのではないだろうか。
・助っ人外国人
ACLではこれまで多くの助っ人外国人が活躍してきた。近年は中国サッカーが衰退しているのでフッキやオスカルといった助っ人外国人を見ることが少なくなったが、全北の9番グスダボや前半の途中から出てきた11番のバーロウはアジアではあまりみられない能力の高さがあった。
9番のグスダボは幾度となく空中戦で勝利してボールを納めて、攻撃の起点となっていた。レッズがハイプレスをかけて蹴らせたボールをグスダボに納められてしまうのは、レッズからすると非常にしんどかった。
また11番のバーロウのスピードはワールドクラスでスペースを与えてしまうとやられてしまうような恐さがあった。そして、バーロウはただのスピードがあるだけの選手ではなく、ボールを持った時の安定した技術や的確な判断でのプレイが光っていた。プレミアリーグに居ただけあってただ速いだけの選手ではなかった。
全北の同点に繋がったPK獲得の場面でも最終的にはバーロウのカットインからのスルーパスだった。バーロウが確かなクオリティを持っていたことは置いておいて、レッズの守備にも問題があった。下の図のように後半から投入された13番のキムボギョンが下りてきたことで、伊藤のところで数的優位を作られてしまった。この場面で言えばプレスをかけ始めたのでモーベルグも仕方なくプレスをかけたが穴を開ける形となり、結果的にバーロウにスペースを与えるキッカケとなった。
本来であればモーベルグが前に飛び出した際には酒井が縦スライドで対応するのだが、バーロウがいたので自重。伊藤が右にスライドして、岩尾、関根もリンクして右にスライドするのが1番ベストだったように思うが、瞬時そこまでやるのは非常に難しい。全体的に見て、全北の1点に値する攻撃だった。
決勝戦で対戦するチームにも必ず高い能力を持った助っ人外国人がいるはずだ。2019年のアルヒラルとの決勝戦ではゴミス、ジョビンコ、カリージョらに高い能力を見せつけられる結果となったことは記憶に残っているだろう。アジアの舞台で戦うということは、そういった高い能力を持った選手をどう抑えることができるかということが重要になってくる。レッズもショルツ、モーベルグ、ユンカーといった助っ人外国人が揃っているので日本人選手の質が問われることにもなってくるだろう。
この試合では久しぶりに能力の高い選手たちを見ることができて、ACLはこういう大会だったと思い出させてくれた。
勝ち筋とジレンマ
レッズはACLの準決勝という大舞台ながらも普段通り緻密に勝ち筋を探りながらプレイすることができていた。
・中盤の3vs2
レッズが1番考えていたことは全北のダブルボランチのところに3人を配置して3vs2の数的優位を作ることだろう。この試合では基本的に関根(大久保)が内側に入ってきて、中盤で1人浮くので岩波からの縦パスを引き出すやり方が多かった。
76:11はレッズの狙い通りのプレイができた場面だった。大久保が内側に絞ってきたことで伊藤と大久保で全北のダブルボランチをピン止め。そうすると小泉が浮くので岩波から縦パスを受けて前を向くことができたので一気に局面が変わりレッズのチャンスになりかけた。
小泉から大久保へのスルーパスは通らなかったが、この中盤での数的優位を作ったところから縦パス一本だけでアタッキングサードまで侵入することができた。緻密に勝ち筋を探っていたことがよくわかる場面だった。
・対4-4-2のボール保持
延長戦に入ると全北は4-4-2のミドルブロックでレッズの縦パスを狙って、奪ったところからカウンターを画策していた。体力的にも前プレスに行けるほどの余力がなかったために、罠を仕掛けてハメるような先方だった。
そんな全北に対して、延長戦でもレッズの緻密なサッカーがよく体現できていた。レッズは全北の4-4-2に対して3-1-5-1でボール保持。3+岩尾vs2トップで安定したボール保持とカウンターケアをすること、ダブルボランチのところで数的優位を作ることはよく意識されていた。
91:27では縦パスが連続で入り、レッズの狙い通りの前進することができた。惜しくも江坂からのパスが大久保に通らなかったが、大久保に繋がっていればチャンスになったであろう場面だった。
この試合でレッズが放ったシュートは27本(10本が枠内シュート)。特に後半最後の怒涛の攻撃はレッズがいつ得点してもおかしくなかった。
レッズは試合を通じて勝ち筋を計算して、勝てる確率を高くしていた。しかし、幾度となくチャンスがあったにも関わらず、不思議なことに119分まで追加点は奪えずに苦しい試合となった。戦術的に相手を上回っているのにも関わらず得点を奪えない展開はレッズにとってはジレンマだった。チャンスを作っていて得点を奪えないということはサッカーではあるあるな現象であり、最後のシュートの局面は選手のクオリティが問われるからである。ラストパスが通らなければシュートまでいけないわけで、ラストパスが通ってもシュートを外せば得点にはならない。
ただ1つ言えることは119分にユンカーの劇的な同点ゴールが生まれたのは必然だったということである。レッズがあれだけの多くのチャンスを作り、特にユンカーと江坂に多くのシュートチャンスがあった。3回シュートチャンスがあれば1本は確実に決めるようなユンカーにボールを集めることができたのは、レッズが緻密に勝ち筋を高めていったからである。得点を取るには得点を取る確率を高める作業が必要になり、得点を取るために設計されたレッズのサッカーよ緻密さが同点ゴールに繋がった。
アジアの舞台で戦うということ、そしてその頂点に立つということは様々な要素が問われる。決勝戦では間違いなく、よりタフなゲームになり勝ち筋を高める作業が必要になるだろう。
幸か不幸か決勝戦は2月。まだまだチームを高める期間があり、選手一人ひとりが成長するだけの時間がある。個人的な印象ではレッズの選手たちは1vs1やデュエルの部分で見劣りする。この試合でもセカンドボールで競り負けて一気にピンチになったり、ボールを落ち着かせられない場面が多々あった。チームの総合力を向上させるとともに選手個々の能力も高めて決勝戦に備えていきたい。
歓喜の瞬間まであと1つ。