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「お前らこの光景を目に焼き付けておけ」

私がまだ中学2年生の頃。

「お前らこの光景を目に焼き付けておけ」と当時のコーチから言われた出来事があった。そして、その時と似たような光景が先週末も見ることになった。

中学2年の市内大会

私は中学生になったタイミングから地元の街クラブに所属した。セレクション時には約100人の選手が参加しており、自分は受かるんだろうかとドキドキしたのを覚えている。その100人の中から選ばれた30人の私の学年は市内では優勝候補の筆頭だった。

そして、中学2年生の時に市内大会があった。市内のクラブチームや中体連が参加するノックアウト方式のトーナメントで順当に準決勝まで駒を進めた。準決勝の相手は同じ街クラブのチームで毎年市内大会では優勝を争うライバルチームだった。準決勝まで残ったチームを考慮するとこの準決勝が事実上の決勝戦だ。

準決勝当日は生憎の雨。クレーのグランドには大きな水たまりが何箇所もあり、会場担当の私たちは朝からグランド整備に追われた。

準決勝が行われた会場

7:30に集合した私たちはトンボで水たまりを引き延ばし拡散、大きなスポンジを使って水を吸引してピッチの外で絞るといった作業を繰り返し、何とかボールが転がる状況になった。

そこから試合前のアップを済ませ、準決勝のキックオフ。一発勝負のトーナメントらしくお互いに固い入りとなった試合は0-0のまま試合が進んだ。

いつもより変な試合だったのは覚えている。プレーをしていて一つのミスが失点に繋がるというような緊張感で息が詰まる雰囲気。ハーフタイムにベンチに戻った時にはメンバーの1人が過呼吸になる選手も出るくらい、精神的に張り詰めた試合だった。

私はボランチでプレーしていたがどんなプレーをしていたかは覚えていない。試合の中の記憶であるのは、後輩たちによる「プレッシャー、プレッシャー、プレッシャー、前線で!中盤で!最終ラインで!おお〜!」というチャントが聞こえて「足を動かさなきゃ」と走り回っていたことと、後半にカウンターアタックを喰らってボールが自分たちのゴールに吸い込まれていく場面のみである。

結局、試合は0-1で敗戦。試合後、何が起きたのかわからない状態で呆然としていたはずだ。正直、試合後のチームトークでコーチが何の話をしたか覚えていない。しかし、私たちの前に広がっていた光景は今でも鮮明に覚えている。」相手チームが大きな水たまりに向かってヘッドスライディングを行い勝利を喜び合っている姿だった。

そんな光景を前に私たちのコーチが「あれが勝ったチームだ。悔しかったら、お前らはこの光景を目に焼き付けておけ」と言った。

先週末のリーグ戦

土曜日のトップチームのリーグ戦

先週の土曜日。昨晩から降り続く雨の中、アウェイゲームの会場へと車で向かった。この試合に勝てばリーグ戦で1位になれるという状況で大事な試合だった。

思ったよりも現地は雨が降っていなかったが風が強く、天然芝のピッチはかなり水を含んで柔らかい状態。ボールは転がるが強く踏み込んでボールを蹴ることが難しいようなピッチコンディションだった。

そんなコンディションながらもいくつかの決定機を作りながら優勢に試合を進めた。そして後半25分にはセカンドボールを拾って背後に抜け出したFWの折り返しを背後から上がってきたMFがゴールへと蹴り込み先制に成功。

そのゴールから相手陣内でプレーする時間を多く作り、上手く時計の針を進めることに成功。残り時間が10分を切るとコーチ陣の間でも時計を見る回数が増えていったが、コーナーゾーンでボールをキープしたりしながら時間を進める。

すると4thオフィシャルからは4分のアディショナルタイムが掲示された。しかし、守備面では特に混乱もなく、ゴールを決めてからの20分間で危ない場面は作られていなかった。しかし、アディショナルタイムに入ると相手もなりふり構わず攻めてくる。ボールを放り込み、僅かな可能性にかけて大きく転んでみたり、50/50のボールには体ごと突っ込んでくる。

そんな中で、50/50のボールに対して、自チームの選手が相手に体を当てて胸コントロールをしたプレーがファールの判定となり、ペナルティーアークの辺りでFKを与えてしまう。

オープンプレーからはピンチになる場面はなかったので、唯一相手のチャンスになる可能性があるのはセットプレーだなと感じていたのだが、嫌な位置からのFKを与えてしまった。

そして、相手が放った直接FKは無情にも壁の間をすり抜けてゴールネットを揺らした。そのまま試合は終了し1-1の引き分けで勝点3を持ち帰ることはできなかった。

相手の同点ゴール時には相手のベンチ全員がピッチに駆け込みセレブレーション。まだ相手チームが喜ぶ姿が頭の中に残っている。

日曜日のU16のリーグ戦

そんな試合をした次の日には私が監督を務めるU16の試合が行われた。対戦相手は無敗でリーグ戦首位を走る昨年度のチャンピオン。先月、対戦した際には1-5で敗れている相手だ。

正直なところ10回対戦したら7回は負けるだろうというような力の差を見せつけられたので、難しい試合になるだろうという予想はしていた。

前半は準備していたハイプレスがハマらずに早々に2失点。このままもう何点かいかれちゃうかなと思っていたところで、カウンターから1点を返すことに成功。その後は息を吹き返したかのようにプレスの強度が高まり五分五分の展開で試合が進んだ。

ハーフタイムでハイプレスの微調整を行うと見事にそれがハマり相手陣内でプレーする時間を増やした後半。残り時間10分というところで、ロングスローから頭で押し込んで同点にまで追いついた。同点になってからは相手はリーグの順位が下から3番目の私たちに勝点を落とすまいと猛攻を仕掛けてくるが、何とか体を張って守る時間が続いた。

40分ハーフのこの試合で80分を過ぎてからの時間の経過は信じられないほどにゆっくり時間が流れているように感じた。81分、82分、83分と時間は経過していき、「早く笛が鳴ってくれ」と思いながら選手たちと一緒に戦っていた。そんな中で、クロスをクリアしたボールをダイレクトで相手にミドルシュートを打ち込まれて撃沈。時計を見たら86分になっていた。

昨日と同じように相手のベンチのメンバーやスタッフたちがピッチに雪崩れ込みセレブレーション。またまた目の前にあった勝点を掴みきれない結果となった。

80+8分の失点の瞬間
2-3で敗戦

雨が降りしきる中で運転して帰るアウェイからの帰り道。試合のことを色々と考えていたのだが、ふと思い出したのが中2で言われた「お前らこの光景を目に焼き付けておけ」という言葉だった。

12年もの歳月が経ち、異国の地でまさか似たような経験を2日続けて経験することになるとは思わなかった。

あんだけ悔しい思いをしたのにも関わらず、人間というのはついつい嫌な記憶を頭の片隅に追いやって、覚えているつもりでいてしまうのだなと実感。私が指導する選手たちには見せつけられたこの光景を忘れずに、次の試合へのエネルギーに変えていってほしいと思う。

勝点は失ったかもしれないが、あの光景を目の当たりにした時の試合の熱、会場の雰囲気や歓声、選手の振る舞いや自分たちの感情は得ることができたはずだ。それらは決して気持ちの良いものではないが、あの時の感覚や感情を思い出し、二度とそういう光景を生み出させないようにと立ち返る経験は得れたのではないだろうか。

この経験を活かすも殺すも自分たち次第。絶対に忘れないために今度は心にこの光景を焼き付けておくことにする。

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Gyo Kimura
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