なでしこジャパンの強さの秘訣と懸念点
3-1
組織的な守備と高さを持つノルウェーを相手に力の差を見せつけてなでしこジャパンはベスト8へと駒を進めた。
ノルウェーのボール保持の4-1-2-3の陣形とボール非保持の5-4-1の守備陣形は興味深く、バルセロナでプレーする10番のグラハムハンセンなどタレントもいたが、なでしこジャパンは3-1と強さを見せた。
なでしこジャパンは全員が共通意識を持って同じ絵を描くことができるので、多彩な攻撃が光った。また、オーガナイズされた5-4-1の守備陣形からのカウンターは今大会で火を吹いており、この試合もカウンターから宮澤が3点目を決めて試合を決定付けた。
分厚い攻撃
なでしこジャパンの攻撃での魅力は両サイドからの分厚い攻撃だろう。LWBの遠藤は左足で良質なクロスを提供する。5-4-1のノルウェーのブロックに対してGK-CB間へ流し込むセンタリングや、ハーフスペースの宮澤とのコンビネーションでPA内のポケットに侵入することもできる。
この時に逆サイドのRWB清水がしっかりとゴール前まで入ってくるため、ゴール前の人数が少なく感じることがほとんどない。ニアで田中が潰れて、ファーに流れたボールを藤野や清水が反応する場面はかなりある。この試合の日本の2点目も大外から清水がゴール前まで絞ってきていたことで相手のパスをカットしてシュートを放つことができた。
多彩なローテーション
また、ただWBがワイドの高い位置に張り出しているだけでなく立ち位置に工夫が見られる。例えば、RWBの清水が少し低い位置を取って、相手のLSBを引き出して、その背後のスペースにシャドーの藤野が流れてボールを受けて1vs1といった手段も持っている。
また、選手のローテーションも繰り返し行われており、ハーフスペースにいた宮澤が外に流れてスペースを空けておき、そこにボランチの長野が入り縦パスを受ける。そして食いついたところで長谷川へ繋ぎ、長谷川の展開力を活かした斜めのボールで背後を取るといった相手DFの目線を変える工夫も備えている。
これだけでなくCFの田中が中盤に下りてきて相手のCBを釣り出した背後のスペースにシャドーが飛び出すといったローテーションや、シャドーが背後に抜けてライン間にボランチの長谷川が顔を出すなど多彩なローテーションを見せている。
日本の1点目も左サイドで遠藤と宮澤がレーンを入れ替えて、大外のレーンでボールを受けた宮澤のクロスがオウンゴールを誘った。
WBとシャドーがレーンを入れ替えてボールを引き出すといった選手のローテーションが攻撃のバリエーションを生んでいる。
高速カウンター
日本の守備組織にも注目するべきだろう。5-4-1のミドルブロックやローブロックは堅守を見せており、この試合で1失点したもののそれ以外の試合ではクリーンシート。各選手のタスクが明確になっていて、相手のボールの動きを制限することができていることが大きい。
この試合でらノルウェーは4-1-2-3のボール保持の形だった。それに対して日本は5-4-1でCFの田中が背中でアンカーを消して、片方のサイドへと制限する。ボールサイドに制限できるとボールサイドへと全体でスライドして圧縮してボールを奪い取る。この試合では相手のCBご持ち運んだ時に長谷川が飛び出して迎撃プレスをかけたり、ただ引いているだけでなく奪う意識も強かった。
そして相手の縦パスを引っ掛けると一気に高速カウンターへと繋げる。ボールを奪った瞬間にシャドーが背後へとスプリントをかける。CFの田中は下りてきて起点になるプレーもしながらカウンターをサポート。この試合途中出場の植木は背後に積極的に飛び出していた。
RWBの清水は運動量が豊富でカウンター時でも長い距離を走って前線まで出ていける選手だ。後方から上がってくるタイミングも良いので上手く攻撃に厚みを出すことができている。日本の3点目もカウンターから宮澤が背後に抜け出して冷静にゴール右隅に流し込んだ。
宮澤はこの試合でゴールを決めて澤穂希が持つ大会5得点の記録に並んだ。確かな技術と圧倒的なスピードは今後相手も警戒してくるだろう。
懸念点
日本の懸念点としては高さを活かした空中戦勝負を徹底してくる相手に対して、どう対応するかだろう。この試合の1失点も相手のゴールキックから中盤で競り負けてボールが相手に渡ったところから始まった。その後、右サイドへと展開されて、クロスからゴール前でも競り負けて頭で押し込まれてしまった。
正直なところこの試合でのパワープレーや放り込みのロングボールへの処理は上手く対処できていなかったので次の試合への懸念点である。
相手がもっと徹底してロングボールを放り込んでくると日本は苦しくなる。
高さに関してはどうしようもないので、空中戦勝負になるべく持ち込ませないように守るしかない。まずはラインコントロールで相手FWをゴールに近づけさせないこと。なるべくラインを高く保ち、ロングボールに対しては人数をかけてチャレンジ&カバーで対応していきたい。
また相手に自由に蹴らせないことも大切だ。しっかりとボールホルダーにプレッシャーをかけて良いボールを供給させないことと、なるべくボールを蹴らせる位置を後ろにさせることが大切だ。サイド深い位置からクロスを入れられるとどうしても頭で押し込まれる可能性が高くなってしまうので、なるべくアタッキングサードよりも前で対応し、アタッキングサードに入ってきた相手に対しては厳しいチェックで対応したい。
この試合ではノルウェーの10番グラハムハンセンに遠藤はかなり手を焼いていた。特にアタッキングサードに入ってからの彼女の仕掛けは脅威となっており、遠藤もなかなか間合いを詰められずに後手を踏んだ守備となっていた。今後、更に強豪国との対戦とるため、確実に相手選手の個人技も警戒しなければいけない。日本のDFラインには5枚が並ぶため、チャレンジ&カバーで人数をかけて対応していきたい。