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勝ち筋の見極め

毎度お馴染みとなっているマンチェスターシティ対レアル・マドリードのCL。今年はラウンド32で早くもこのカードが実現した。

今回は試合の文脈から「どこに両チームが勝機を見出していたか」を考察していく。


ダブル偽SB

この試合シティはアケ、アカンジ、グバルディオル、ディアス、ストーンズの5人のCBタイプの選手を同時起用した。

もはやグバルディオルLSBとしてのポジションを確立させているし、ストーンズやアカンジは中盤でも遜色無いプレーをするため何を持ってCBタイプというかは定かではないが、彼ら5人の同時起用は珍しい。

シティのボール保持では偽SBの要領でLSBのグバルディオルとRSBのアカンジが内側に絞り、アンカーのストーンズと並んで3ボランチを形成。これに対してレアルはヴィニシウスとエンバペが2トップとなり、ベリンガムがLSHにシフトする4-4-2のシステムで対抗した。

2-3-5 vs 4-4-2

おそらくレアルはシティのダブル偽SBは想定していなかった。前半のレアルのプレスやミドルブロックはシティの2-3-5のボール保持の前に空回り。その上にシティは2-3-5を基本形としながらもベルナウドシウバがボランチまで降りてきたり、ハーランドが偽9番で中盤に顔を出したり、デブライネがサイドに流れてきたりと戦術ボードに選手の動きの矢印を描いたら線で溢れて何も見えなくなるだろう。

ローテーション例

シティの1点目はまさに選手のローテーションからプレス回避をしてハーランドのシュートまで繋げた場面だった。デブライネが左サイドに流れてプレスの逃げ道を作り、インサイドに入ったグバルディオルへと展開。グバルディオルから背後に抜け出したハーランドへのスルーパスで起点を作ると、グリーリッシュの鮮やかなループパスにグバルディオルが胸で落としてハーランドがフィニッシュ。

レアルはコーナー付近に追い詰めた時点で奪ってしまいたかったが、奪いきれずに右サイドで縦スライドでハメに行った影響でハーランドとアセンシオが1vs1の局面を晒すことに。最終的には中盤の選手のリカバリーも遅く、グバルディオルのペナ内への動きに付いてこれなかった。

前半のレアルはシティのダブル偽SBによってRSHのロドリゴが非保持で何のタスクを実行すれば良いのかブレてしまったことと、LSBのメンディーがベリンガムがプレスに出た際にRWGのサビーニョにピン留めされて縦スライドできていなかったことが前半を難しくした。

シティからするとカウンターや単騎攻撃を繰り出せるレアルに対して、守備力で期待できる5人のCBタイプの起用は合理的であり、ネガティブトランジションの際に3枚のボランチがいれば中央から最短距離でカウンターを受けるリスクを減らすことができると考えたのかもしれない。

また、これまでであればヴィニシウス対ウォーカーの超人対決が展開されるのがシティ対レアルだったが、今シーズンは対ヴィニシウスのストッパーとしてアカンジが選ばれた。残念ながら怪我で途中交代となったが、アカンジの1vs1の守備は存分に発揮されていたと言えるパフォーマンスで前半は上手くヴィニシウスを抑えていた。そういった点からもアカンジのRSBは理にかなっている。

しかし、レアルもHTに微調整。非保持で4-4-2のRSHに入るロドリゴの位置を内側に入れて中盤のスペースを圧縮。ボールがサイドに渡ると逆サイドのSHは中央までスライドした。サイドの1vs1はバルベルデとメンディーが担当し、セバージョスとカマヴィンガはディフェンシブサードでは+1の役割をはたし、CBやSBが釣り出された時のDFラインにできる穴を埋めた。

シティはレアルの微調整に対して、攻めあぐねる時間帯が続いた。レアルの両SHが内側に絞るのでハーフスペースやライン間へのパスコースが封鎖されてしまい、前半ほど中央を起点に攻めることができなくなっていった。それでもフォーデンのPK獲得となった場面では左から中央を経由してペナ角付近でフォーデン対メンディーの1vs1の状況を作ったから生まれたものである。スルスルっとドリブルで抜き去っていくフォーデンに対してセバージョスも懸命にカバーに入ったがフォーデンが1枚上手でPK獲得した。

マンパワーの攻撃陣

レアルのストロングポイントはやはりヴィニシウスとエンバペを中心とした攻撃陣だろう。レアルはボール保持では4-2-3-1の陣形を基本とし、右サイドではバルベルデとロドリゴのインアウトのローテーション、左サイドではヴィニシウスとエンバペが1vs1を繰り出してくる。

ヴィニシウスやエンバペにボールが入った時に1vs1を仕掛けるスペースや時間があれば、それは試合の文脈に関わらず、ゴールチャンスを意味する。例えば、前半25分の左サイドからのヴィニシウスのカットインシュートは単独で組織的な守備をこじ開けることができることを示すには相応しい場面だった。つまり、レアルはいかにヴィニシウス、エンバペ、ロドリゴの前線3枚にボールを供給できるかが試合の鍵を握る。

逆にシティはマンパワーのあるレアルの前線に良い状態でボールを入れさせないことが守備での重要な戦略となったはずだ。

そこでシティは4-3-1-2の中盤が菱形になるハイプレスでレアルの前線にボールを配球させないor良い状態でボールを入れさせないことに注力した。一方のレアルは前半はシティのハイプレスを前にサイドへと誘導させられてしまい思ったように前進できなかった。

シティ4-1-3-2 vs レアル4-2-3-1

特にボランチのセバージョスやカマヴィンガがサイドに流れてボールを引き出そうとしたが、逆に中央の選択肢がなくなりサイドでハマってしまう形が前半は多く見られた。

サイド圧縮されてハマってしまう

それでも後半からはサイドと中央のバランスを調整。セバージョスやカマヴィンガがサリーしてCBの脇に下りた時にはトップ下のベリンガムも連動して中央のボランチポジションに入ってバランス調整。

カマヴィンガやセバージョスがサイドに流れた時にはベリンガムが下りてくる

更にはRSBのバルベルデを高い位置に上げて、彼をターゲットにロングボールを入れ、セカンドボールを拾って前進するという攻撃も効果的だった。

無論、後半にシティのプレス強度が落ちたことでレアルが前半よりもボールを保持しやすくなったことも後半の試合の展開に大きく影響した。

勝ち筋をどこに見出すか

レアルはヴィニシウスやエンバペ、ロドリゴといった世界屈指のアタッカーにいかに数的同数の状況を作ることができれば、ある程度ゴールの確率があると想定していたはずだ。

そのためミドルブロックでパスを引っかけてカウンターから得点というのは常に狙っていただろう。ヴィニシウスが非保持ではエンバペと2トップを組んだのも「カウンター時の脅威となる」と「守備のタスクを減らす」という2つの目的でわざわざベリンガムがLSHに回ったはずだ。

レアルの不安材料があったとすれば、4-4-2の守備力とハーランドを相手にした際のDF陣だろう。1失点目はサイドに追い込んだが奪いきれずに打開され、チュアメニもサイドにスライドしていた関係でハーランド対アセンシオを露呈。そこを起点にされて失点してしまった。ただ個人的には思ったよりも2トップが守備を頑張っていたし、4-4-2のブロックも後半は特に上手く中央のスペースを消して守ることができていた。

そしてチャンスの数から考えると3得点は妥当であり、ヴィニシウスやエンバペの背後への抜け出しや、ロドリゴが右サイドでボールキープしてからバルベルデが上がってきたりと豪華な前線を活かした攻撃を発揮することができていた。この点については2ndレグも期待できる勝ち筋である。

一方でシティは中央で数的優位を作り、ボール保持をしながら前進。レアルほどの個の破壊力はないためチャンネルランやオーバーラップなどで攻撃に厚みを持たせた。1番効果的に攻めることができたのは左ではグバルディオル、右ではデブライネのラインブレークからのクロスやカットバックだろう。前半34分のデブライネの右サイドからのオーバーラップでのポケット侵入はシティの狙い通りの形だ。

しかし、前半30分でのグリーリッシュの負傷交代やHTでのアカンジの負傷交代はシティにとっては厳しいものとなった。特にアカンジはヴィニシウスのストッパーとしての大役を上手くこなしていたが、リコルイスがRSBに入ってからは守備面でいくつか危険な場面を露呈。52分のヴィニシウスとの1vs1で振り切られてクロスからベリンガムがヘディングシュートした場面など前半ではあまりなかったプレーが見られるようになった。

それでも80分までレアルペースながらも耐えたことでPK獲得し勝ち越しに成功した。最新的にシティはホームで2-3と劇的な逆転負けとなってしまったのだが、2-1と上手くゲームを進めていたことは確かである。特にレアルが持つ「チャンスになりそうな雰囲気のない局面からチャンスを作り出してしまうマンパワー」を上手くコントロールしていた。

FKの2ndフェーズから絶妙なエンバペの動き出しによって1失点したものの、ボールを握りながら試合の展開をなるべく自分たちのペースで進めることができていた。

しかし、試合時間残り10分で2失点で逆転負け。80分のハーランドのPKでのゴール以降の『勝ち筋の見出し方』は何があっただろうか。

ペップはなるべくクローズドな展開で試合が終わっていくことを願っていたはずだ。自分たちがボール保持の時間もある程度作りながら時計の針を進め、守備力は落としたくないということは考えていただろう。そこでデブライネとサビーニョを下げてギュンドアンとマームシュの投入し、運動量の担保とボール保持で計算できる選手を入れたのだろうと推測する。

おそらく本音を言えば、守備力を高める交代をしたかっただろうが、ベンチメンバーで守備的プレイヤーとして考えられるCBのクサノフやCMのニコ・ゴンザレスは新加入選手であり年齢も若いことを考えるとこの大舞台での大役は任せづらかったはずだ。それならば、大崩れすることはなく経験もあるギュンドアンやマルムシュの投入でとなったはずだ。

しかし、そこからエデルソンのパントキックのミスから失点し、同点になるとATには痛恨の決勝点を献上した。

結果的にHTで交代となったアカンジの離脱による守備力の低下やデブライネがピッチから去ったシティとモドリッチが入ってきたレアルとでの心理的インパクトは、この結果の要因なのではないかと感じてしまった。

ペップのフィロソフィーに5バックにしてゴール前を固めるという選択肢はないだろうし、これまでのシティを考えるとボールを保持してゲームをコントロールして勝ってきたという自負もあるはずだ。ただ、この試合でピッチ上でチームの揺るぎない勝利への自信や精神的に支柱となっていたのはデブライネだったのかなと。そのデブライネをピッチ取り除いたことで生じた影響はあったのではないかと推測する。

逆にレアルは80分に失点してからもブレなかったのはモドリッチの影響が大きいのではないかと思う。更にはこれまでに似たような状況、もしくはこれよりも苦しい状況から勝利を手にしてきたという事実もレアルを後押ししたかもしれない。

選手交代は非常にセンシティブな決断だ。誰を下げて、誰を入れるかは常に監督の頭を悩ませる。時にチームの核となる選手を下げることでパフォーマンスが上向く試合展開もあれば、この試合では低調なパフォーマンスだが信頼できる選手をピッチに残し、心中する覚悟で祈ることも指導者あるあるである。だからどこに勝ち筋を見出すかは非常に難しく答えがない。きっと現場でしかわからない事情もあるはずだ。

いずれにしても1stレグはレアルが先手を取った。マドリードで行われる2ndレグではどのようなドラマが待っているだろうか。

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Gyo Kimura
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