トランスパーソナル国際会議について。
1985年4月23日から29日までの6日間(26日は休会)、京都市左京区にある国立京都国際会館にて「第9回トランスパーソナル国際会議(ITA)」がひらかれました。
この国際会議、組織委員の顔ぶれがすごいです。組織委員長は京セラ、KDDIの創業者・稲盛和夫氏。組織委員としてソニー創業者・井深大氏、心身医学の草分け池見酉次郎氏(九州大学名誉教授)、ユング心理学を日本に紹介した河合隼雄氏(京都大学教授)と樋口和彦氏(同志社大学教授)、茶道裏千家家元・千宗室氏、哲学者・西谷啓治氏(京都大学名誉教授)、人類学者・山口昌男氏(東京外国語大学教授)といった、経済界の大物、心理学や哲学、医学の第一人者が名を連ねました。
プレゼンターは世界中から集まりました。アポロ9号の宇宙飛行士ラッセル・シュワイカート氏、生物学者・認知学者でオートポイエーシス理論のフランシスコ・ヴァレラ氏、臨死体験の研究で知られる精神科医エリザベス・キュブラー・ロス氏、精神科医ジョン・ウィア・ペリー氏(黒船のペリー提督の子孫)、箱庭療法を開発したユング派心理学者ドーラ・カルフ氏、歴史家で南アフリカズールー族の占い師でもあるウズマズール・クレード・ムトゥワ氏らに加え、スタニスラフ・グロフ氏をはじめとするトランスパーソナル心理学の論客たち。日本側からは、仏教学者の玉城康四郎氏や樋口和彦氏も登壇しました。
講演のいくつかは『宇宙意識への接近 伝統と科学の融和』(春秋社)に収録されているので、今でも読むことができます。そのどれもがアツく感動的。エリザベス・キュブラー・ロスの講演だけでも読んでほしい。
この日本で最初の「トランスパーソナル国際会議」において総合司会をつとめたのが吉福伸逸さんでした。専門分野もバックグラウンドもさまざまな登壇者をさばき、まとめる難しい役割は、他に適任者はいなかったことでしょう。トランスパーソナル心理学の理論書とされたケン・ウィルバー『意識のスペクトル』がちょうど翻訳されたばかりで、タイミング的にはばっちりといったところです。
このように書くとまるでこの会議は吉福さんが招聘、主催したものと思われるかもしれませんが、事実はまったく異なります。吉福さんが事務局から総合司会を依頼されたのは会議の直前で、吉福さん自身はこの会議を日本でおこなうのは時期尚早と思っていたようです。
招聘のきっかけについては河合隼雄さんが『宗教と科学の接点』(岩波書店)のなかで書いておられます。この本、今読んでもはっとさせられるところがたくさんあります。冒頭、ジョン・ウィア・ペリー氏と話したことが出てきますが、「どれほど妄想や幻覚に悩まされ、あるいは、荒れ狂っている患者さんに対しても、それをこちらが鎮めようとか治そうとするのではなく、『こちらが自らの中心をはずすことなく、ずっと傍にいる』と、だんだん収まってくる」という部分なんて、東畑開人さんがやっていることにつながっているのかなあ、なんて。
また招聘の準備や実際のようすについては樋口和彦さんが『ニューサイエンスと東洋 橋を架ける人々』(誠心書房)に書いておられます。この本、ニューサイエンスやトランスパーソナルといったものに対して、既存のアカデミズムの側から書かれたものとして、かなり画期的と思われます。この分野に関心のある人はぜひ読んでいただきたいし、私もそのうち、じっくり読み返したいです。
この国際会議に関してはほとんど資料が残っていないので、雑誌「アーガマ」58号に掲載された広告を載せておきます。しかし参加費10万円って高いですね。参加者がどれくらい集まったのでしょう? けっこう人が入っていたという人もいるけれど、収支はやはり赤字だったらしいです。
さて、この会議であるていどの手応えを得たのでしょう。吉福さんはこのあと、トランスパーソナル関係の翻訳・出版に邁進していきます。翻訳書が月に1冊出る時期もあり、仲間内では「月刊吉福」といわれていたとか…。
この会議がおこなわれた国立京都国際会館は、1997年に開催された地球温暖化防止京都会議=COP3など、歴史に残る国際会議の舞台となった場所です。実際に行ってみると、ものすごい会議場です。
コンクリート造りなのに和の要素を取り入れた、斬新な建築ですね。設計したのは建築家の大谷幸夫氏。
周囲には豊かな自然が広がっています。
これがメイン会議場となった大会議場。4階まで吹き抜けになっています。
壇上から見た風景。私だったら緊張して死んでしまうかも。
大会議室以外にも、こうしたちいさな会議室がいくつもあります。会議はいくつかの会場で並行しておこなわれたようです。
茶室もあります。組織委員に千宗室さんがいたので、お茶のセレモニーがおこなわれたかもしれません。
このように心理学、医学、哲学、仏教、経済界のビッグネームを集めて大規模に開催された「トランスパーソナル国際会議」でしたが、日本で開催されたのはこれが最初で最後となりました。トランスパーソナル関係の国際会議それ自体、もう何年もひらかれていないようです。
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