解説やあとがきなど。
ネットで検索すれば吉福さんの著書や翻訳書は見つかると思いますが、解説を書いたものまではなかなかたどり着かないかもしれません。ということで今回から何冊か、吉福さんが解説やまえがき、あとがきを書いている本を紹介したいと思います。
『呪術師カスタネダ 世界を止めた人類学者の虚実』(リチャード・デ・ミル、マーティン・マクマホーン著 高岡よし子、藤沼瑞枝訳 吉福伸逸監修 大陸書房)
1983年刊行の『呪術師カスタネダ 世界を止めた人類学者の虚実』(リチャード・デ・ミル、マーティン・マクマホーン著 高岡よし子、藤沼瑞枝訳 吉福伸逸監修 大陸書房)は、もとは別々に刊行されていた2冊の本を再編集したもの。カスタネダのドン・ファン・シリーズの概要を初心者にもわかりやすくまとめたいい本です。
吉福さんはメキシコからロサンゼルスへ向かう長距離バスのなかでカスタネダの著作と出会い、それが人生のターニングポイントになったと話しています。その言葉どおり、1974年の帰国後は繰り返しカスタネダ=ドンファンについて書き、語ってきましたが、単行本として出ているのはこの一冊だけのようです。ここでは全体の翻訳と文章を監修するとともに、短いまえがきを書いています。
『ポジティブ・シンキング』(シャクティ・ガワイン著 大野純一、大塚正之訳 阿含宗出版社刊)
1986年刊行の『ポジティブ・シンキング』(シャクティ・ガワイン著 大野純一、大塚正之訳 阿含宗出版社刊)。1978年に出版された"Creative Visualization" の翻訳で、雑誌「アーガマ」の連載を単行本にしたもの。著者のShakti Gawainはニューエイジ関係の著作を累計1000万部も出している作家です。
吉福さんはこの本で解説を書いていますが、観想法=Visualizationのさまざまなテクニックを紹介した本の解説で、いきなり「テクニックじゃないんだよ」と全否定する吉福さん。
「しかし、ここで注意しておかなければならないのは、観想法などのテクニックを使って何か大きな肯定的な変化が起こったとしても、それはテクニックそのものの力によるものではなく、自分自身の気持ちを変えた自分の力であるという点である。変わったのは世界でもなく事態でもなく、自分自身である」
ところでこの本の原題は"Creative Visualization"ですが、なぜ『ポジティブ・シンキング』というタイトルにしたのでしょう。日本でポジティブ・シンキングという言葉が一般に広まったのは故斎藤澪奈子さんの『愛のポジティブ・シンキング』以降だと思っていましたが…。ちょっと調べてみるとワーナー・エアハードのestとの関連性が出てきました。吉福さんは80年代初期に、自己啓発セミナーのルーツともいわれるestに興味を持っていたようで、おおえまさのりさんとの対談でも熱く語っていますし、『精神世界の本』でも「トランスパーソナル心理学」より多くのページを割いて取り上げているのです。
もちろん吉福さんのことですから、自己啓発セミナーのマニュアル主義や底の浅さを批判していましたが。
『エニアグラム入門 性格の9タイプとその改善』(P.H.オリアリー、M.ビーシング、R.J.ノゴセック著 堀口委希子、鈴木秀子訳 春秋社)
鈴木秀子さんのベストセラー『9つの性格 エニアグラムで見つかる「本当の自分」と最良の人間関係 』(PHP文庫)があるエニアグラムですが、鈴木さんによる1987年に刊行された『エニアグラム入門 性格の9タイプとその改善』(P.H.オリアリー、M.ビーシング、R.J.ノゴセック著 堀口委希子、鈴木秀子訳 春秋社)の最後に、吉福さんが解説を書いています。
実は吉福さんは70年代から、エニアグラムを利用したワークをしていたことが、今回の取材でわかっています(当時はエネアグラムといったそうです)。この解説には、エニアグラムを西洋世界に紹介されたとされるグルジェフのこと、オスカー・イチャーソとアリカ研究所のこと、ぜんぶ出ています。そして最後に、エニアグラムが性格占いのように興味本位で使われないよう、しっかり釘を刺しています。
「エニアグラムはあくまでも自己の成長というコンテクストで使用されるべきであり、たとえば占星術のように自己納得的な道具とすべきものではない。スーフィーやグルジェフがエニアグラムの当人に直接かかわりのある側面だけを、それも口伝えという形で伝えてきたのはそのためである。その点くれぐれもご注意願いたい。」
ちなみに訳者の鈴木秀子さんは当時、聖心女子大学の先生でしたが、吉福さんは依頼されて聖心女子大学でグループセラピーをおこなったことがあるそうです。80年代のことです。
『シャーマンへの道 「力」と「癒し」の入門書』(マイケル・ハーナー著 高岡よし子訳 吉福伸逸監修 平河出版)
1989年刊行の『シャーマンへの道 「力」と「癒し」の入門書』(マイケル・ハーナー著 高岡よし子訳 吉福伸逸監修 平河出版)で、吉福さんは14ページに渡って解説を書いています。内容は解説というより、立派な論文、論考というべきもの。例えば『日本霊異記』からの引用もあったりして、吉福さん、そんなものまで読んでいたの? とびっくり。解説の冒頭で制度的宗教religionと区別すべくspirituarityという言葉を用いているのですが、いまとなってはスピリチュアル、スピリチュアリティという言葉がずいぶん俗っぽいものになってしまったのが残念でなりません。
『ここは宇宙一番地』(松本東洋著 アズ工房発行 童話社発売)
1989年発行の『ここは宇宙一番地』(松本東洋著 アズ工房発行 童話社発売)。吉福さんの解説、監修ではないのですが、最後に「さらに、文献だけでは私の手に余る部分について(中略)、博覧強記の旧友、吉福伸逸氏の助言を仰ぎました」とあります。松本東洋さんは吉福さんの高校の同級生。ずっと疎遠だったけれど、80年代の終わりにワークショップの場で再会したそうです。あとがきにはこんな記述もあります。
この本を書き上げて、友だちに読んでもらいました。
すると、その彼がまず言ったことは
「ここに書かれてある内容は、科学的に正しいのかい?」でした。
この「」の部分、いかにも吉福さんですよね。
『センタリング・ブック』(ゲイ・ヘンドリックス、ラッセル・ウィルズ著 手塚郁恵訳 春秋社)
1990年刊行の『センタリング・ブック』(ゲイ・ヘンドリックス、ラッセル・ウィルズ著 手塚郁恵訳 春秋社)でも吉福さんは解説を書いています。
センタリングとは「自分のなかに中心(センター)をもつ」ための技法です。子どもの教育においてセンタリングが有効であることをのべつつ、「だがここで忘れてならないのは、現代社会の大人に欠如しているものを、子どもに求めることはできないということである」「とすれば(中略)大人と子ども双方が共に学び成長するためのものでなければならない」「この点をおろそかにすると、いかに素晴らしいテクニックや指針であれ、指導者の無意識裡の価値観を押し付ける道具になり下がってしまうであろう」と手きびしい。
『マイ・レボリューション』(ジェリー・ルービン著 田中彰訳 めるくまーる)
『マイ・レボリューション』(ジェリー・ルービン著 田中彰訳 めるくまーる)で吉福さんは「ヒューマンポテンシャル運動」と題し、1960年代から70年代にかけての社会の動きと、その中から生まれた自己啓発、自己探求のムーブメントをコンパクトに、俯瞰的な視点から解説しています。
ジェリー・ルービンはアメリカの有名な反体制活動家。政治運動から始まって70年代にはヒューマンポテンシャル・ムーブメントに身を投じます。彼が体験したセラピーにはゲシュタルト・セラピー、ライヒアン、バイオエナジェティックス、ロルフィング、フィッシャー・ホフマン・プロセス、エスト、アリカ・トレーニングなどが挙げられています。