各国の新型コロナウイルス感染症死者数の推移等(2020年8月9日)


 下記のグラフは8月9日現在の各国の新型コロナウイルス感染症による高齢者(65歳以上)人口10万人あたりの死者数です。



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 留保すべき点についてあらためて確認します。
・ 人口、高齢化率とも2018年、一部2019年のデータに依拠しています。したがって2020年現在の正確な数字ではありません。もっともCovid-19の死者の全員が65歳以上に限定されているわけではありませんし(東京都のデータによると6月末までの死者の平均年齢は79.3歳)、基礎疾患の有無で死亡率はかなり異なります。高齢者人口当たりの死者数は感染状況の最良の指標と思われますが、具体的な数値は大まかな状況を把握するための目安にとどまります。
・ 統計の正確さは各国により大きく異なる可能性があります。例えば、中国は4月18日に集計漏れ1,290人を追加し、イギリスは4月30日にそれまでカウントしてこなかった病院以外の場所で死亡した4,419人を含め、スペインは5月26日に死者数のうち1,915人について重複があったとして修正しています。一般論としていえば途上国ほど数値の信頼性には留保が必要になると思います。なお、Covid-19の肺炎はごく影の薄い間質性肺炎で、その他の肺炎と区別のつかない医師、近時肺炎の症状の患者についてCovid-19を疑わない医師はいないと思われます。
 その前提で、やはり目につくのはかなり遅れてウイルスが到達した中南米諸国のー例えばペルーで初めて死者がでたのは3月19日です。ー感染拡大ぶりです。カーニバルの時期にウイルスが到達していたらもっと酷かったでしょう。私は、日本に住む知人で感染した人は知らないのですが、数日前にボゴタ在住のコロンビア人の友人が感染し(但しほとんど症状はないようです。)、少し前にブラジル人の知人の祖母がCovid-19で亡くなっています。ペルー人の友人は叔父と祖父をCovid-19で失いました。私の場合中南米諸国とは仕事の関係が深いので、たいへん残念なことですが、彼らとの人的交流の再開はかなり先のことにならざるを得ないと思います。


  

 次いで日本・中国・韓国・米国・英国・イタリア・スペイン・フランス・ドイツの65歳人口10万人あたり死者数の推移です。季節性インフルエンザの場合、この数字は25~30程度と思われます。

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 日本・中国・韓国をピックアップするとこのようになります。


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 3月15日から8月9日まで7日毎の65歳人口あたり死者数の推移です。1ヶ月程度前の感染状況の遅行指標となります。

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 欧州でもっともよく感染を抑えているドイツの状況です。ドイツは5月7日から経済状況を段階的に再開を始めました。数字そのものは依然日本より良くないのですが、経済活動再開が死者数に影響を与える6月中旬以後も顕著な増加傾向はみえません。医療体制や再開後の感染防止措置が功を奏しているのかも知れません。

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 アメリカの状況です。6月20日頃から死者が増加しています。3月~4月に感染拡大の中心であったニューヨークの状況は落ち着いているので、その他の地域で5月中旬~下旬頃から感染が拡大していると思われます。

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 アメリカは5月、6月にかけて非農業部門雇用者数(Nonfarm payrolls)が750万人以上増えたので、経済活動再開の影響もあったのでしょう。なお雇用状況の改善は7月に入ってかなり強めのブレーキがかかりました。感染拡大に歯止めがかからない状況で、今後の経済もV字回復は難しいと思われます。

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 日本・中国・韓国の状況です。中国は4月17日以後の死者は2名、5月18日以後、1人も死者が出ていません。これが厳密に正確な数字かどうかはともかく、対策については学ぶべきところがありそうです。

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 日本の死者数は7月18日頃から4倍、9倍と急増しています。元々の数字の少なさを考慮してもかなり危険な増え方で、6月中旬から感染が急激に拡大したこと、そのペースは3月初め頃、欧米からの帰国者が増え始めた頃と同等であることが見てとれます。3月はその後さらに欧米からの帰国者ラッシュが続き、これに対して適切な対策を取らなかったため、感染は拡大の一途をたどりました。当時と事情は異なりますが、単に感染状況を注視するだけではなく、対応が必要と思われます。

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 続けて日本のコアコアCPI、景気動向指数、さらに労働力人口、就業者数、完全失業率です。

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 コロナ前はマネタリー・ベースの拡大にもかかわらずウンともスンとも言わなかった日本のマネーストックも、コロナ後は急速に伸びています。

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 感染状況とあわせて考えると、4月から5月にかけて、経済はデフレ再燃リスクも含めて相当危険な状況にあったが、流動性供給、各種給付をはじめとする政策対応の効果で雇用の悪化は経済の落ち込みとの比較においてある程度の範囲で食い止めた、5月25日の東京など5都道県における緊急事態宣言解除、6月19日の全国的な移動制限の解除は、経済の回復へ大きな効果があった、だがそれは感染拡大という大きな代償を伴った、とまとめることができそうです。
 感染拡大対策の基本は流行地域からの人の流れを断つ、人と人との接触を減らす、三密対策などの行動変容を促す、の3つで、いずれも、特に前2つは経済・社会活動と矛盾します。感染拡大阻止と経済・社会活動の回復という相反する政策目標を前にして、日本政府に明確なポリシーは感じられず、状況に流されつつあるように感じます。

(追記)

Covid-19でもっとも大きな被害を被るのは、どうやらラテンアメリカのようです。
ILOの報告書"Panorama Laboral en tiempos de la COVID-19: Impactos en el mercado de trabajo y los ingresos en América Latina y el Caribe"(下記URLからダウンロードできます)によると、新型コロナウイルス感染の影響で、ラテンアメリカ・カリブ地域全体の総労働時間は20%縮小し、これは週40時間労働とすると5500万人分、48時間労働とすると4700万人分の雇用に相当します。ちなみに4月に市場最大の雇用縮小を経験したアメリカの非農業部門労働者数減少は2000万人です。
メキシコでは労働時間減少のうちの半分は停職と労働時間の短縮に起因しますが、残り半分は失職によるものであり、リマ首都圏(ペルー)では3月から5月の3ヶ月で半数の職が失われました(なお、外出制限等で外に出ることができない人の場合、失職しても労働力人口には含まれないので、失業率では雇用の実態が測れないことに注意してください)。ペルーは金融危機後も好調な経済成長を背景に貧困層を減らし、2009年に33.5%だった貧困率が2019年は20.2%まで減少しましたが、その成果も一挙に失われるかも知れません。
https://www.ilo.org/americas/publicaciones/WCMS_749659/lang--es/index.htm#:~:text=Nota%20t%C3%A9cnica-,Panorama%20Laboral%20en%20tiempos%20de%20la%20COVID%2D19%3A%20Impactos%20en,los%20pa%C3%ADses%20de%20la%20regi%C3%B3n.

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