各国の新型コロナウイルス感染症死者数の推移(2020年9月6日)と8月のアメリカ雇用統計
9月6日現在の各国の新型コロナウイルス感染症による高齢者(65歳以上)人口10万人あたりの死者数です。留意すべき点については過去のエントリーをご参照ください。
1週間ごとの死者数の4週間の推移です。8月11日にCovid-19の死者の定義を大幅に変更したイギリス、4週間分のデータがないエクアドル、ロシア、ドミニカ共和国は除いています。
ラテンアメリカ諸国の死者数にははっきりとした減少傾向がみられません。少なくとも7月初め~8月初め頃までは感染が高いレベルで推移したことが見てとれます。
気になるのは世界2位の人口大国・インドでの感染拡大です。
日本と韓国の3月15日以後の1週間毎の65歳人口10万人あたり死者数の変化です。両国とも経済・社会活動の再開とともに感染の再拡大が始まったことがみてとれますが、死者については頭打ちの傾向がみられます。
アメリカとフランスの比較です。アメリカもフランスも、3月に感染爆発を経験したこと、その後感染の勢いが衰えたものの経済・社会活動の再開とともに感染の再拡大がみられる点は共通していますが、感染爆発後の収束状況は大きく違います。アメリカは少なくとも8月初め頃までは感染拡大をピークから十分下げることができていません。
アメリカは雇用の回復も捗々しくありません。
先週金曜日に発表された8月の雇用統計の結果です。
労働参加率が上昇している中での失業率の低下なので、まずまずの数字とみることも可能ですが、非農業部門雇用者数(non-farm payroll)の回復は思うように進んでいません。コロナで職を失った人は2152万9000人、その後職に戻った人は1062万1000人、未だに1000万人以上の人が職を失ったままです。
ところで、2014年3月、FRB議長に就任したジャネット・イエレン氏は、金融危機後、失業率はピークの10%から6.7%まで低下したものの、労働市場には"slack"(たるみ)、すなわち働く意欲も能力も備えた求職者の数と求人数のギャップが存在すると指摘し、危機後の景気回復の鈍さに懸念を示しました。
"What the Federal Reserve Is Doing to Promote a Stronger Job Market"
Chair Janet L. Yellen, March 31, 2014
https://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/yellen20140331a.htm
その際に、イエレン議長が"slack"の4つの根拠として示したのは、フルタイムの仕事を希望しているがアルバイトをしている多くの労働者、名目賃金の上昇の鈍さ、長期失業者の存在、労働参加率(生産年齢人口=16歳以上人口から高齢・疾病・犯罪などの理由で老人ホーム、病院、刑務所等の施設におり働けない人を除いた者=に占める労働力人口=現に就職しているか、就職活動をして働く意志を表明している人=の割合)の低下です。
名目賃金前年同月比は、既にグラフに示しましたので、その他の指標をみてみましょう。
アメリカでは本来の失業率とともに、15週間以上の長期失業者をU1、失業者+縁辺労働力(就業希望の非労働力人口のうち、仕事があればすぐつくことができ、過去12か月に仕事を探したことがあるが過去4週間には仕事を探さなかった者)+経済的理由による短時間就業者(週35時間以上の労働時間を希望しているが、実際の労働時間が週35時間未満であり、その理由が事業不振などによる労働時間の短縮や週35時間以上の仕事を探せなかったなどの経済的理由による者)をU6として公表しています(U3が本来の失業者、U2とU4、5については説明省略)。U6はFRBも注目する指標です。
失業率、名目賃金、労働参加率などの"slack"関係指標はいずれもトランプ政権下で良化し、それが新型コロナウイルス感染拡大前のトランプ政権の経済政策に対する根強い支持につながっていましたが、その状況は一変しました。コロナ禍が長期化するとともにU1が高水準で固定化する動きが見てとれます。
先日のジャクソンホールで、FRBは2%超の物価上昇を許容し、雇用重視の姿勢を鮮明にしました。低迷する労働参加率、高いレベルにあるU6、高止まりの兆しが見えるU1、雇用がコロナ前の水準を回復するにはかなりの時間がかかることが予想されます。
(参考)
"雇用重視に転じる中央銀行と「使命」拡大" アダム・ポーゼン 2020/9/4 2:00
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63401600T00C20A9TCR000/
ナラヤナ・コチャラコタ前ミネアポリス連銀総裁の予言的な提言
"The Fed Needs to Focus on Employment" Narayana Kocherlakota July 24 2020, 4:30 PM
https://www.bloombergquint.com/gadfly/fed-forward-guidance-needs-to-focus-on-employment
日本語訳は → https://twitter.com/GuenichiYGC/status/1288613641005092864
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