そろばんによる脳トレで元気な街づくりへ
#29 シバトリそろばん教室 代表 柴田 亨さん
全国のそろばん教室数がここ30年で半減している逆風の中、代表の柴田亨さんは板橋区高島平にシバトリそろばん教室を開校しました。
子供向けのクラスが中心ですが、大人向けのクラスやオンラインでの授業・タブレットPCを使用した授業などを取り入れていたり、世界に目を向けた普及を考えていたりと現代に合わせた運営方式となっています。
そろばんを通じての地域への貢献を目指し、高島平をそろばんの街にしたいという目標を持つ柴田さんにお話を伺いました。
紆余曲折の末、たどり着いたそろばん教室
- そろばん教室を開校した経緯をお聞かせください
柴田 会社勤めをしていた2018年に副業としてはじめました。私自身、色々な仕事を経験していまして、最初は公認会計士事務所に入社しました。その後、退職してベンチャー企業に入社をしたのですが、そこではやりたいことができず、英文会計の仕事を求めてアメリカの上場企業の子会社に転職をしました。ですが、その企業も体調面で続けるのが困難になりました。それから大手企業の経理部で社内認定講師や財務統括の教育研修などの仕事をしていたのですが、2016年に退職し未経験ながらタクシーの運転手をしました。さすがにタクシーをはじめたときは家族もびっくりしていましたが(笑)
そろばん教室はまったくやったことがなかったんですが、色々な仕事を経験した結果、自分はもともと何かを教えることが好きだったことに思い至り、副業としてはじめることにしました。
そろばん教室は世襲でやられる人が多いと聞いたので、開校前のリサーチとして息子が通っていたそろばん教室の先生に経営が成り立つのかと聞いてみたところ、自分でもできそうだなと感じました。そこで息子の友達に声をかけてみたら2人からやってもいいよと言ってもらったので、それでスタートしました。
そろばんは脳に「いいスポーツ」
- 副業ではじめられたのですね。なぜ、ご経験のなかったそろばん教室を開校しようと思われたのですか?
柴田 私も小学4年生のころに地元にそろばん教室に通っていたんです。最初は全然乗り気じゃなく、親に勧められたからやっていた感じでした。でも、その時に受けた検定試験が不合格になってすごく悔しかったんです。それから毎日そろばんをするようになりました。
その経験から、一生懸命にやった成功体験や子供のころに何か熱中できることがあると将来何かの助けになると考えてそろばん教室を開校しました。子供たちに自慢できることをひとつ作ってあげたいと思っています。
- そろばんを学ぶことでどんなメリットがあるのでしょうか?
柴田 そろばんは計算器具ですが、計算機やコンピュータの登場で純粋な計算器具としての役割はほとんど終えたと思います。
今は脳力開発器具としてそろばんは活用されています。小学生向けの塾は「5+5=10」という計算の答えを暗記させるんですが、そろばんは実際に手を動かしながら計算をする。そうすることで筆算をしなくても暗算ができるようになります。慣れてくるとそろばんがなくても頭の中でそろばんを弾いて計算ができるようになるんですよ。そうやって頭を回転させることが右脳のトレーニングになります。他にも集中力や忍耐力が身に付くなど良い効果はたくさんあります。
- 生徒さんは何歳くらいの方が多いのですか?
柴田 一番多いのは小学生の生徒さんです。早い人だと3歳くらいからはじめている人もいますが、習い事としてそろばんをやるのは小学生が中心です。もちろん中学生や高校生になっても続けている方もいますし、中高生で続けている人はそろばんを好きな人が多いので加速度的に上達する人が多いですね。
学生さんだけでなく大人向けのクラスもあって、昔そろばんを習っていた人や新しくはじめたい大人の人も学ぶことができるようにしています。
課題は顧客の入れ替わりへの適応
- 開校から現在に至るまでを振り返って印象に残っていることはありますか?
柴田 今の教室に移転したことですね。開業当初から自宅でやっていたので固定費もかからなかったのは良い点でしたが、一回の授業で受けられるのが7人まででした。振替対応を受けているとどうしても難しくなってしまい、生徒さんのことを考え移転を決意しました。テナント費などのコストを考えると収支がマイナスになるかもしれなかったので不安はありましたが、幸いにも心配は杞憂に終わりまして、今では知り合いの方にお声掛けをして先生として手伝ってもらっています。
- 経営者としてそろばん教室の課題はどのように考えられていますか?
柴田 やはり集客の難しさですね。紹介が大事なので保護者の対応は疎かにしてはいけないと思っています。通わせたいと思われる教室にしていくことが課題のひとつですね。
それから、生徒さんの在籍期間がだいたい2~3年とそんなに長くないので、常に集客はしていかないといけないので厳しい世界だと思います。
そろばん、世界へはじく
- 紹介以外ではどのような方法で集客されていますか?
柴田 今はSNSやホームページでの宣伝しかできていないのが現状です。ただ、SNSだと興味のある人の目にしか入らないので、チラシ配りやポスター張りなども必要だと考えています。今後は、難しいとは思いますが、大会で日本一になることでアピールをしている教室もあるのでそういった方向も目指していきたいですね。私自身、アイデアを考えるのが好きなので色々やってみたいことはあります。
- 具体的にはどのようなアイデアでしょうか?
柴田 今考えているのは、世界に目を向けることです。実は近年ではそろばんはグローバルな教育ツールとしてアジアをはじめ、ヨーロッパや南米、アフリカなど世界中で使われています。
中でも、ガーナでは日本のNPO団体がそろばんを教えるプロジェクトをしています。そのプロジェクトで活躍されている國分先生という方がいらっしゃるのですが、8月8日のそろばんの日に来てもらって講演してもらいました。講演の模様はTVで放送されまして、私としても世界に目を向けるきっかけとなりました。
また、具体的に取り組みたいこととして近くのフランス人学校の生徒に向けてそろばんを広めたいと考えています。フランスは日本のアニメにも好意的だと聞きますし、2024年にはパリオリンピックもありますので、日本の文化のひとつとして注目してもらいたいと思っています。
それとそろばんには読み上げ算というのがあるのですが、英語版と中国語版、韓国語版はあってもフランス語版はないんです。それを作ったりできれば面白いと思います。
あとは、全国でもそろばん教室のない地域もありますので、通えない方向けにオンラインでのそろばん教室を充実させたいですね。
高島平をそろばんの街にしたい
- 今後の目標をお聞かせください。
柴田 大きなビジョンとしては高島平をそろばんの街にしたいっていうことを考えています。
少し前に高島平は誕生50周年を迎えたんです。団地があるのですが、一人暮らしの高齢者も多いと聞いています。そこで、そろばんを通じてコミュニティを作っていければいいなと思っています。そろばんをしていくことで認知症などの予防になって元気な街になっていくといいなと思います。ただ、それには個人でやっても限界はあると思うので、行政などと連携する必要もあると思います。
今はまだ手探りの段階ですが、そろばんの日に行ったガーナの國分先生の講演や高島平をそろばんの街にしたいということを新聞社やテレビ局に手紙を出したことがありまして、大阪本社の方が興味を示してくださったんです。その時は出張が難しいということで実現しませんでしたが手ごたえを感じています。これから色々なことに挑戦していきたいと思っています。
[企業情報]
シバトリそろばん教室(開校:2018年1月)
https://www.shibatorisoroban.com/
〒175-0082東京都板橋区高島平7-12-5-106
(余録)
色々お話を伺うなかで、高島平近隣の芸能人のお話しやYouTuberとの交流のお話があり、とても行動力のある方だなという印象を受けました。
そろばん教室は全国的には減少傾向ではありますが、柴田代表には高島平がそろばんの街になる未来への道筋がうまく計算立っているのだと感じました。(小澤昇路)