CFP算定における課題とは? 第1回GXスタジオで参画企業が活発に交流
2023年4月にGXリーグが本格始動しました。本年度のイベント第1弾として「GXスタジオ」が2023年6月23日に開催されました。
GXスタジオは、GXに挑戦する参画企業のみなさまが業界の垣根を越えて課題を共有し、自由に交流を行う場として、昨年度から定期開催してきました。2023年度第1回のテーマは「CFP算定における取り組みと課題」。多くの企業が脱炭素に向けた実態把握に難しさを抱える中、GHG排出量を可視化するCFP(カーボンフットプリント)への注目が高まっています。会場には想定を大きく上回る企業の参加者が集まり、オンライン聴講とあわせて超満員でのスタートとなりました。
冒頭のあいさつに立った経済産業省の中山竜太郎氏は、リーグ参画への謝意を伝えるとともに、「脱炭素のマーケットをつくっていくには、現段階では企業間で共通認識を持つフェーズだと考えています。いろいろな意見を交換しながら、課題解決に向けた仮説などを固める場としてこの場を活用していただきたい」と、幅広い交流を呼びかけました。
今年度は新しい官民交流の取り組みとして、省庁関係者がGXスタジオに参加。今回は、マツダ、住友化学の参画企業2社と、経済産業省、環境省によるプレゼンテーションが行われました。
省庁によるプレゼンテーション
■経済産業省
経済産業省 産業技術環境局 環境経済室の増野圭輔氏より、「サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに向けたCFPの算定・検証」を主題としたお話がありました。グリーンな市場を創出するにあたって、CFPは製品が選択されるための指標・基盤であるとし、国内においても適切に算定されたCFPに基づくグリーン調達を推進する必要があると述べました。
この取り組みを進める上では、ISOやGHGプロトコルなど複数の規格が存在し解釈が難しい部分があること、一次データ算出が難しいことを課題に挙げ、2022年度にはこうした課題感をもとにCFP検討会を開催しました。その成果として2023年3月に公表した「CFPレポート」および「CFPガイドライン」では、CFPの正確性・客観性について概念を示すとともに、産業別の取り組みの方向性や、CFPを利活用する者への注意点、算定方針などをまとめています。
今後の方向性について、国内ルール等の環境整備、グリーン調達の仕組み構築、中小企業への支援などに力を入れていくと述べた増野氏。「グリーン製品市場の創出を通じて、競争力向上とサプライチェーン全体での排出削減に取り組んでいきたい」とし、参画企業のGX経営や積極的な調達行動にも期待を寄せました。
■環境省
環境省では、グリーン・バリューチェーンの実現に向け、「知る・測る・減らす」の3ステップで企業の脱炭素経営支援を行っています。その中でも中小企業の取り組み促進には動機づけが重要であり、丁寧な説明と事業者のニーズに寄り添った支援策を提供しています。
CFP算定・表示については、難易度や業務負担の大きさから取り組みを躊躇する企業も少なくないことから、同省では公募によるモデル事業を実施。2022年度にはCFP算定から製品への表示まで、4社との取り組みを行いました。その成果を踏まえ、経済産業省と連名で「CFP実践ガイド」を作成し、2023年5月に公表しています。
同省地球環境局 地球温暖化対策課 脱炭素ビジネス推進室の峯岸律子氏は、モデル事業について、「参加企業からは、パートナー企業の巻き込みや製品への表示に苦労はあったものの、可視化による好影響があったとフィードバックをいただいている」と手応えを述べました。2023年度はCFP算定・表示と、組織単位排出量の2つのモデル事業に取り組む予定で、前者についてはサービスのCFP算定にもチャレンジする考えを示した峯岸氏。「モデル事業を通じて先進的なロールモデルを創出し、今後に向けて水平展開してきたい」と意気込みました。
参画企業によるプレゼンテーション
■マツダ
マツダは、サプライチェーン全体でのCO2削減に向け、2021年にCO2排出量調査を開始しました。部品系排出量の4割以上を地場の中小企業が占めるという実態を受けて、地場を中心とした主要サプライヤー70社に対して個別のCO2削減ロードマップを作成。生産性向上とエネルギー転換の両輪で、それぞれの進度に応じたきめ細かな対策に取り組んでいます。地場サプライヤーを巻き込むにあたっては、経営層とのコミュニケーションを密にして理解を促し、「できることを一歩ずつ着実に」という姿勢で共に活動しています。
同社カーボンニュートラル・資源循環戦略部の深川健氏は、こうした現状の取り組みは組織軸でのCO2排出量をもとにしているため、「製品軸でCFP算定を進めるには、地場中小企業に対していかに浸透を図っていくかが課題」と強調。サプライヤーに対していかに動機づけをするか、一次データにどの程度の精度を求めるか、どこまでの客観性を求めるかなど、悩ましい点は多いとしながらも、「制度整備やCFPデータ交換プラットフォーム開発といった外部環境の動向を踏まえながら、段階的に精度向上を図っていきたい」との姿勢を示しました。
■住友化学
カーボンニュートラル時代を見据え、2022年4月に石油化学部門を「エッセンシャルケミカルズ部門」と改めて事業モデル改革を進める住友化学。同社は、社内で開発した製品カーボンフットプリント算定システム「CFP-TOMO®︎」を用いて2万品目を超える自社全製品のCFP評価を完了しています。
開発に携わった技術・研究企画部の当麻正明氏によると、化学工場では、下流の製品を上流の製品の原料として再利用するといった複雑なモノの流れがCFP算定を難しくする要因となっています。同システムはこうした計算を簡易化・効率化し、さらに副生品などの合理的な取り扱いにも対応。2022年からは他社へ無償提供を行っており、すでに化学系を中心とした70社以上に活用されています。
今後、経済活動での利用に耐えうる算定方法とするためには「入力するデータの正確性やサプライヤーからの原材料CFP提供はもちろんのこと、国際的な第三者検証制度が必須ではないか」と当麻氏は述べ、国際認証ルール作りや人材育成への期待感を表しました。
CFP算定について、関心ごとや課題を掘り下げて議論
短い休憩の後、イベント後半は6人前後のグループに分かれてのディスカッションへ。議論に先立ち、GXスタジオが掲げる3つのルールを共有します。
3つのルールとは、①Learning by Doing(議論と実践)、②ShouldよりWANT(まずは一人称で「〜たい」を語ろう)、③Safe space(自由な発言を許容しよう)。すべての発言に称賛を示す姿勢で、異なる立場同士が自由に対話し、共に解をつくっていくことを目指すものです。
まずは各自の自己紹介とあわせてCFPについて関心のあるトピックを共有し、話し合うテーマを決めていきます。その後、「現状の取り組み・工夫」「課題」「議論を踏まえて今後活用できそうな点」の枠を設けたワークシートに、それぞれの意見を書いた付箋を貼りながら議論がスタート。早々に全員が立ち上がってワークが始まるグループや、苦悩の声に耳を傾け合うグループなど、進め方はさまざまでしたが、次第に声のボリュームも増していき、活発に意見が飛び交いました。
およそ20分後、席替えによりメンバーをシャッフルして、2回目のディスカッションを行いました。1回目に話し合った話題や、ワークシートに残された付箋なども参考に、内容を絞り込みながらさらに議論を深めていきます。共感の相槌を打ちながら真剣に解決策を話し合う様子や、難しさに直面しながらもポジティブな視点で語る姿が多く見られ、熱を帯びたディスカッションとなりました。
共通認識を持つ重要性
ディスカッションは予定時間を少し延長するほどの盛り上がりでしたが、終了時間が近づき、最後にいくつかのグループが話し合った内容を全体共有。発表では、次のような意見が挙げられました。
「各社の評価方法や算出目的、粒度もさまざまで、CFPをもってしても同じ物差しで会話するのが難しかった。業界を超えた相互理解がまだまだ不足していると感じた」
「複数のスタンダードがある中で、どのルールに従うかは検討がもっと必要」
「データの正確性が大きなカギ。簡単ではないが、今後必要な人に必要なデータが提供されることを期待したい」
イベントの締めくくりには、事務局の佐藤より挨拶を行い、「今日の議論では結論が出なかった方も多いかもしれませんが、いろいろな業種から企業が集まる機会なので、交流を広げたり、議論して知見を得たりと、ぜひこの枠組みをうまく利用していただきたい」と引き続きの参加を呼びかけました。
盛況のうちに幕を閉じた第1回GXスタジオは、参画企業のみなさまの熱意に触れ、今後のGXリーグの活動に弾みのつくイベントとなりました。今年度のGXスタジオは、官民を超えた交流に加えて、参画企業同士のつながりを後押しできるような設計を目指していきます。次回は8月下旬に開催予定です。参画企業のみなさまのご参加をお待ちしております!
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