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aisaac的、まずはやってみよ。『掌編 博士のモンブラン』

 aisaac社のマーケター、伊藤です。小説家です。
 18の頃から「和蘭三葉」というペンネーム(?)で表現の実験をしてきたこのnoteのアカウントが、「世の中を、実験しよう。」というミッションを掲げるaisaac社のアドベントカレンダーという形で舞台に立つ日が来るとは、感慨深いものがあります。

 さて、クリスマスまであと4日。大詰めのタイミングで一筆仰せつかったのは本当にありがたいことです。ここで繰り返してきた文章実験を、今日はまた違った形でお見せできれば幸いです。

 少し恥ずかしい気もしますが、持ち得る限りの白さに従って、aisaac社×小説という実験をしてみようと思います。大実験だ。

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では。
こんな曲を流しながら読んでもらえると良いかもしれない。

プロローグ(序章)

 <div>……h……h…he…hello world。こんに……ちは、もしもし、ああ、やっと繋がった。やあ、こんにちは、こんばんは。読者諸賢におかれてはこの文章をいつ、どのようにして読んでいただいても一向に構わない。いつまでだってこの場所にたどり着きさえすれば、私は語り続けているだろう。</div>

 <div>諸賢の世界ではクリスマスまでもうあまり時間が残っていないみたいだ。手短に済ませよう。どこかわからない重力の密集した場所で、私は今、君たちに交信を試みている。
 もしこの文章が届いているのなら、どうかその印に、<b>このページの上のハートマーク</b>を返してくれると嬉しい。押してから続きに進んでいただければ幸甚だ。</div>

プラトンは私の友、アリストテレスは私の友。
しかし最大の友は、真理である。

『哲学的諸問題』(アイザック=ニュートン・1664年)

男は尋ねる。「だが、世の中はコードみたいに美しくはないだろう? 」
私は答える。「誰がそうやって決めたんだ? 」

第1章 Less is Bore

 今日は、12月21日。
 年に1度の日だ。キャサリンはいつもより少しだけ上気していた。

 今日は彼と彼女が出会って3年の記念日なのだ。しかも土曜日!
アーニー(彼女の夫だ)がケーキを受け取りに出掛けている間、彼女は鼻歌まじりにテーブルを拭いたり、緑や赤に光るクリスマスツリーの電飾の曲がった部分を直したりしていた。

 ケーキ屋に着いたアーニーは店主に尋ねる。
 「この店にあるショートケーキ、全種類頼むよ」

 「モンブラン以外もう、全部売れちまったよ

 真っ白な着衣のコックは小さな目をまんまるにして驚き、答える。
なんということだ、もう彼には選択肢は残されていなかった。答えがシンプルすぎるのはあまり好きではなかった。自暴自棄気味に彼は道端で煙草に火をつけ、コックに悪態をついた。

 帰りを待つキャサリンに不吉な電話が鳴った。その音の響き方に、彼女は電話を取ることすらできなかった。電話は知らぬ番号からだった。こんなに折り返したくない電話は初めてだった。

 アーニーに何かあったのではないか。咄嗟にキャサリンはそう考えた。恐ろしくなった。表では車の往来が彼女を阻み、それが暗い示唆のように感じられた。

第2章 Keep Problem Try

 アーニー・W・ジョンソンは1881年、ニューメキシコ州に生まれた。
彼は狂騒の20年代に最も美しく勢力のある俳優として長らく大衆に愛され、禁酒法の最中にアルコール依存症で倒れた。

 彼の凝り固まった頑固な肝臓は、高値で売買されたという噂のほうが有名かもしれない。彼の立派なあご鬚は国中でプロパガンダとして利用され、空前の大衆化社会に押されて死んでいった。

 彼を有名にしたセリフの一つにこんなものがある。

「だが、どのルビーが贋作かを見定めるのはプロの鑑定でも難しい」
「腐ったりんごが嫌なら探すのは樽の中じゃない」
「じゃあ、どこを? 」
「木からもぐのさ」

『続く航路』/1942年

 彼の挑戦の日々を語るためには相応の日数と時間が必要だから、ここでは極めて重要なことだけを書くとする。

 アーニーは初めから俳優の才覚があったわけではなかった。むしろ、彼がこの仕事に辿り着けたことは奇跡と呼んでいい。彼の中のアルコール依存は日に日に大きくなっていき、カリフォルニアへ向かうための電車賃でダラスへ向かい、その日のうちに全て使い切ってしまうような男だ。

第2'章 Get things done

 たまたまたどり着いたモーテルで、一人の脚本家と出会い、アーニーは俳優としてのキャリアを歩み出す。後のパートナーとなるキャサリンだ。二人はGPSでもつけていたかのように、運命的な精度で住まいから離れた場所で出会い、瞬く間に仲を深めた。

 彼女は彼の性質を見抜き、そして彼の問題となる部分を全て取り除いた。アーニーの死後書かれたキャサリンの自伝的エッセイには、彼女の性格を最もよく表す口癖が描かれている。

”Keep your mind.  I love your problem, but the people can't.
Try again , and try again. You are the greatest actor. ”
(私はその悪癖が大好きだけれど、あなたを待つ国民たちはそうじゃないってことを肝に銘じておくのよ。
そして何度でも演じ続けるの、あなたは最も優れた俳優なのだから。)

『キャサリン・W・ジョンソン「挑み続ける我が生涯」』/1965年

 アーニーは『続く航路』で悪徳宝石商を演じるにあたり、90日もの間、1日たりとも欠かすことなく近所の宝石屋のゴージャスなショーウィンドウの向こう側から働きぶりを学んだ。

 俳優としてのキャリアを歩み始めてからの10年間、彼の演技への執着は異常なもので、それ以外の生活についてはほとんど語ることが残されていない。その仕事ぶりを数多くの関係者が「a great hard worker」と評した。

 自堕落なアーニーが俳優として活躍できた大きな理由は、運命的な、天使の導きのようなマッチングだっただろう。
 よく二人はこう伝え合っていた。

「君に出会えて良かった」

第1'章 Less is More

 今日は、12月21日。

キャサリン (舞台上手に登場)
      (鼻歌を歌いながら楽しげにスキップしている)
アーニー  (下手、続いて登場)この店にあるショートケーキ、全種類頼むよ
キャサリン 電話? 知らない番号から……。彼に何かあったのかしら
アーニー   何、売り切れだって?
      じゃあそのモンブランを貰おう、特別な梱包をしてくれ
      どうすればいいかだって? そんなの決まってるだろう
      真っ白な箱に小さなリボン、シンプルが一番さ
      そう、その代わりとびきり丁寧に包んでくれ
      僕がその辺を走る車とぶつかっても崩れないようにさ
キャサリン 大丈夫、大丈夫よ、アーニー
      あなたは世界で最も素晴らしいのだから
      愛の総量がモンブランと同じくらい重たくって、
      そして私たちはその幸福の中で眠るのよ
      不吉な電話には、出ないわ
アーニー、キャサリン 同時に舞台から去る。
コック 不思議そうに首をかしげながら下手から登場。
    道着のように垂れているお腹の上の紐を締め直す。

「おかしいな、モンブランはさっき売り切れたはずなんだが……」

for (let i = 0; i < 2000; i += 1)

エピローグ (終章) ワクワクを勝たせろ

 1661年、ニュートンはケンブリッジ大学に入学した。教授職につき、彼の伝説的な著書「プリンキピア」を著すにあたっての彼の熱烈さは周りが驚くほどで、寝食も忘れるほどだったのだという。彼もまた「great hard worker」の一人だ。

 ニュートンの友人はどこにいるのだろう、私はそれを探しながらここまで12月21日を、そして1661年、1881年を繰り返し旅をしてきた。終ぞそれは見つからない。

 だが、この旅を続けることに意味がある。なぜか?
 だってこの道のどこかに真理があるのだ、私がここまで発してきた2992文字の中に、真理を見つけたいと望んだ。

 さあ君たちの世界ではもう12月22日が目の前に迫っている。
 ループは終わりを迎える。クリスマスがやってくる。鈴の音が聞こえてくる。まだ誰も聞いたことがない透き通ったソリの足音、雪は柔らかに溢れる。

 カーテンを開け、アーニーの挑戦の人生に、ニュートンの探した真理に、遠く思いを馳せる時、ブルークリスマスはホワイトクリスマスに変わる。
 誰がなんと言おうと私はこの旅をやめない。君たちに届けることを諦めない。

…ああ、…時間が来たみたいだ。……最後…に…。
……を…ろ……。



……。
ワクワクを、勝たせろ。

伊藤凱

あとがき(🗝️I SPY!)

・文章中に、aisaacの事業が隠れている。
そんなことを見つけるのも、文章を読む一つの楽しみです。

・1221、1661、1881、2992はそれぞれ「エンジェルナンバー」と呼ばれているらしい。始まりの数字に戻ってくる不思議な数字。何度も振り出しに戻りながら挑戦を繰り返し、最後には別の到達点へ。それが実験の本質かもしれません。など。

 社名に冠しているアイザック・ニュートン、それからジョンソン夫妻、ミース、ベンチューリに拠った。引用元について最小限の記載に留めたが、ここに感謝の意を表する。

あとがきに添えて

 aisaac社には沢山の多様な仲間がいます。エンジニアの視点、事業家の視点、経営の視点、そんな藪の中のような様々な視点がこのアドベントカレンダー企画に現れています。
 そんな多様な仲間と事業に興味のある方は、ぜひこちらをご覧ください。

 小説や哲学として言葉の中に真理のようなものを探す挑戦、世の中に不便や未解決を発見しテックで解決していく挑戦、全然違うことのように見えて、実はその髄は繋がっていると思います。
 そしていつの世も、人の心や生活を動かしてきたのは言葉と発明だと思います。いつの日か月にたどり着き私は言いたい。
「この一歩は小さいが人類にとっては偉大な躍進だ。」

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