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FICOスコア経験者が語るクレジット・ガイダンスの現状と期待

私は以前、米国のフェア・アイザック社(FICO)の日本法人に在籍し、個人の信用評価に関する業務に従事していました。そのため、株式会社シー・アイ・シー(CIC)が新たに提供を開始した「クレジット・ガイダンス」には大変興味を持っています。

2024年11月28日、CICは「クレジット・ガイダンス」の提供を開始しました。このサービスは、CICが保有する信用情報を基に、個人の信用状態を200から800の3桁の数値で表し、その算出理由を最大4つまで提示するものです。

一方、FICOスコアは、個人の信用力を300から850の範囲で評価する指標として、長年にわたり金融業界で広く利用されています。FICOスコアは、以下の5つの要素を基に算出されます。

  1. 支払い履歴
    これまでの返済履歴から、月々の支払いがきちんと行われているかを評価します。FICOスコア全体の35%を占める最も重要な要素です。

  2. 借入残高
    所持している全クレジットカードの合計利用限度額のうち、どの程度利用しているかを評価します。利用限度額に対する使用割合が高いと、信用度が低く評価されます。全体の30%を占めます。

  3. 信用履歴の長さ
    クレジットカードを利用している年数を評価します。利用歴が長いほど信用が増し、全体の15%を占めます。

  4. 新規借り入れ
    直近の短期間でどれだけのクレジットカードを発行したかを評価します。新規発行数が多いほど信用度が低く評価され、全体の10%を占めます。

  5. クレジットの種類や構成
    所持しているクレジットカードやローンの種類や量を評価します。多様なクレジットを適切に管理していると高く評価され、全体の10%を占めます。

これらの要素を総合的に分析し、個人の信用力を評価するのがFICOスコアの特徴です。

一方、クレジット・ガイダンスは、支払状況、残高、契約数、契約期間、申込件数などの客観的な取引事実に基づいて指数を算出し、年齢、性別、勤務先、居住地などの属性情報は使用しないとされています。また、統計的分析手法を採用し、AIなどのブラックボックス化の恐れのある手法は使用せず、算出理由を明示することでサービスの透明性を確保しています。

しかし、FICOスコアと比較すると、クレジット・ガイダンスのスコアリングモデルは、考慮する要素が限定的であり、個人の信用力を総合的に評価するには不十分であるとの指摘があります。特に、クレジット履歴の長さやクレジットの種類など、信用力を評価する上で重要とされる要素が含まれていないため、スコアの妥当性に疑問が生じる可能性があります。

さらに、クレジット・ガイダンスの指数は200から800の範囲で提供されますが、FICOスコアの300から850という範囲と比較すると、スコアの粒度が異なります。この違いにより、金融機関が与信判断を行う際に、クレジット・ガイダンスの指数だけでは十分な情報を得られない可能性があります。

また、クレジット・ガイダンスは2024年11月28日から消費者への提供が開始され、2025年4月1日からクレジット会社等への提供が予定されています。このサービスは、消費者が自身の信用状態を把握し、金融リテラシーの向上や多重債務の未然防止に役立てることを目的としています。しかし、現時点では金融機関での利用実績が乏しく、その有効性や信頼性については今後の検証が必要です。

総じて、クレジット・ガイダンスは日本国内における新たな信用評価の試みとして注目されますが、FICOスコアと比較すると、スコアリングモデルの妥当性や粒度に課題が残ると言えます。今後、CICがこれらの課題をどのように解決し、サービスの精度と信頼性を向上させていくのかに期待したいところです。

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