『きっと伝わらないことの』
視線
「あと1か月で共通テストだ。クラスでみな進路は様々ですが、互いの状況を尊重して毎日を過ごすように」
朝のホームルームで白崎先生が生徒たちに諭すように告知する。その声は穏やかだ。うちの高校は超トップ校とまではいかないけど、大学受験する奴もそこそこいて、卒業したら就職する奴もいる、けっこうバラバラなタイプが集まっている学校だ。それで喧嘩が起こるわけではないけど、人間関係がきしむ場面もないわけではない。だからよく、担任や数学や国語の先生、生徒たちの摩擦を和らげるためにいろんな話をするらしい。そうサッカー部の先輩から聞いた。
「中村君は受験するんだあ」
ふいに呼ばれて振り返ると、泉あずさが微笑んでいた。長い黒髪でスマホからイヤホンで音楽をききながら、長いまつげの奥から目が光るように見つめ、
「恵まれてるね」
「……なんだよそれ」
泉は答えず、小ばかにしたように机のわきを通り過ぎ席に着いた。泉の目を追うとその先に、安村が進路相談のプリントを読んでいた。それを泉はじっと見つめていた。
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