きっと伝わらないことの
3 家族
「兄貴どしたん? びみょーにぼーっとしてん」
裕一が夕食のカレーをかきこみ飲み込んだタイミングで聞いた。
「う―――ん……」
テーブルには母さんが作り置きしてくれたカレーとサラダ、あとさっき淹れたほうじ茶を並べて、先に帰っていた裕一と遅い夕食を食べている。
「志望校のこと? 迷ってんの」
「お前さ、クラスメイトの名前って全員言える?」
裕一の釣り目がハア?と三白眼になる。
「なんだそれ」
サラダを口に放り込んでごくりと飲み込み、呆れたように、
「どうでもいいんじゃねえのそんなこと。受験前にどーしたんだよ」
「や、まあいろいろあったんだけど」
裕一はスマホを取り出し、
「まあラインとTwitterで登録してる奴は一応。もし入ってないのがいたら覚えてないのかも。慎吾兄もそうだろ」
「……俺の名前覚えてないわーって子いて、じみ~~にこたえてるっつーか」
「なに、女子? 女子はインスタとかTikTokのほうが盛り上がってるんじゃね」
「え、そうなの?」
「毎日なに見てるんだよ、それで名前がどーとかこーとか気にするとこちげーだろ」
そういうもんなのかなァ、2つ下の裕一はあまり勉強もスポーツも打ち込むタイプじゃないけど、俺が気にも留めていなかったことを意外と見ていたりする。たぶん同じ本で読書感想文なんて書かせても、全く違うことを書くんだろうなと思う。
「兄貴、クラスで空気とかじゃないしどうせもうすぐ卒業じゃん、なんでそんなこと気になんだよ」
「ドライだなーお前」
「兄貴、受験落ちるぞ」
「ぐぅッ」
痛いところを突かれ流しに食器をさげ、自分の部屋に引っ込む。母さんが帰るのは遅く、父さんが帰ってくるのはもっと遅い。だから受験に関しても、自分で情報収集して決めた。
「今どきアルバムなんて、どうするんだろうなあ……」
一人で呟いて、いつも通り塾の問題演習に取り掛かり、そのことはすぐ忘れてしまった。
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