1ギミルコインを3回連続で表にすると、信じられないことが起こる。………らしい。
1ギミルコインとは、PSの名作ゲーム「ワイルドアームズ」に登場するイベントアイテムだ。名前のとおり、1ギミルの価値のあるコインなのだが、ギミルという単位がどの程度の価値を持つのかは不明(ゲーム内通貨はギル)。そして、アイテムとして使用しても表裏を判定するだけという、当時、小学生だった僕にはなんの意味があるのか、そもそもこれがなんなのかもわからない謎のアイテムだった。
だがその状況は、ファミ通から発売された攻略本を手に入れたことで一変する。そこには「1ギミルコインを3回連続で表にすると、信じられないことが起こるらしい」という、実しやかな情報が記されていたのだ。(実際の効果は、その戦闘中での攻撃が全てクリティカルヒットになるという、そこまで信じられないことが起こるわけではない)
この攻略本だが、答えを教えるというよりは、答えに誘導するといった内容で構成されている。今考えると攻略本としてどうなのかとは思うのだが、しかし、一冊の読み物として非常によくできていた。中でも隠し要素を一つの新聞記事として扱った巻末の1ページが非常に印象深い。はいよるこんとんという敵の存在、闘技場に眠る古代の魔王の存在、エルゥのほこらの転送システムは実は不安定であるという事実、そしてタイトルにもある1ギミルコインの真実など、エンドコンテンツというべきそれらの存在を、答えを示さないように調整しながらも、おもしろおかしく紹介してくれた。
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30歳というキリのいい年齢を迎え、娘の誕生というビッグイベントもあり、ふと人生を振り返ったとき、真っ先に頭に思い浮かんだ娯楽は「ワイルドアームズ」だった。数えきれないほどのゲーム、映画、漫画、小説に触れて、いまの「僕」という人格は形成されたのだが、このゲームは別格だ。その理由は、もちろんゲーム自体の良さは言うまでもないのだが、今にして思えば、長野の片田舎に住む少年の心を鷲掴みにした、この攻略本の存在が大きかったのではないかと、ふと思い至った。
今の時代、たいていの疑問はネットを介せばすぐに答えがわかる。それはそれで悪くない、むしろ便利なのだが、あのとき答えを示すのではなく、あえて「考えさせる」という道を示してくれたあの攻略本のような存在が、娘が成長するこれからの世の中にも在ってほしい。そして夢中になるものを見つけてほしい。そんなことを、ぼんやりと思ったので、備忘録としてここに記録しておく。