読書が苦手だった僕は、「三体」で過去の人になった。
じっくりと一冊の小説を読むなんていつ以来だろう。少なくとも5年は読んでいないと思う。仕事で文章を扱うため、プライベートでは意識して避けていた、ということも大きな理由だとは思うが、それにしても読まな過ぎた。
そんな僕がなぜ「三体」を手に取り、ここまでドはまりしたのかというと、何とはなしに入った書店で目に留まった、ゲームクリエイター小島秀夫氏の推薦文があったからだ。
昨年末に発売されたゲーム、「デス・ストランディング」に大きな衝撃を受けた僕は、以来、小島監督にどっぷりはまっている。彼の著書、「創作する遺伝子」を読破し、彼の進める本、映画を見てみたいと思った矢先の出会いだったので、目に留まってからの行動は早かった。大判書籍2000円という、普段本を読まない自分からすると、少々痛い出費も気にすることなく、レジに向かっていたのだった。
冒頭でドはまりしたと言ったが、正直に告白すると、読み始めてしばらくは内容がまったく頭に入らなかった。
まず登場人物の名前が読みづらい。葉文潔(イエ・ウエンジェと読む)をするりと発音できるほど、僕の頭はできていないので、付録のピンクの紙(人物表)を片手に、何度も行ったり来たりをくり返すからとにかく時間がかかる。第二に物理の専門知識に疎いため、登場人物が何に衝撃を受け、何と戦っているのかが一切理解できない。物理学?三体問題?という、そっち方面に関してはズブの素人なので、なんとなくわかった気になるしかなかったのだ。(麻雀のルールがわからない状態でアカギを読むのに近い感覚)
それでも読み進められたのは、ひとえに「三体」の文章が上手かったからだと思う。とにかく無駄がない。そして息つく間もなく新たな問題が起こり続けるストーリー。畳みかける展開のすごさに圧倒され、読みづらい、理解できないのに納得してしまう。そんな凄みを感じる文章だった。普段小説を読まない自分がそうなのだから、読みなれた人なら本当にスラスラ読めてしまうのではないだろうか。
内容に関してはネタバレになるので触れないが、読書に馴染みない僕が、休憩時間をほぼすべて「三体」に充ててしまうほどにはドはまりしてしまう。そんな小説だ。面白いと評判の本には、それなりの理由がある。そんな当たり前のことに気づかせてくれた「三体」に、そして小島監督に感謝しつつ、次は何を読もうかと書店に足を運ぶのだった。