身近な木の枝でものづくり
普通の木工作業のときに出る、乾燥しきった端材で木削りをした人が「生きている木をわざわざ切ったりせずに」木削りができたのがよかった、と書いておられたのを目にしたことがあります。確かにそうだよね、と思いました。
それでわたしも先日、既成の板材(桐)を削ってみました。
そしたらそのあと気分がふさいでしまい、しばらく木削りに戻れなくなりました。。。桐の板材を削ったから、というわけでは決してないはずと思うんですが、ふだん気分が下降気味なときに木削りをすると上がってくるのに、このときはそうならなかったのが不思議でした。この既成の板材は、削っているときから「なんだか元気が出ないな」という感じがあったのでした。
似たようなことを、昔、ホームセンターのSPF材を削ったときにも感じたことがあります。SPF材を削ること自体は、生木を削る体験をするまでは、別段なんとも思ってなかったんですけども。。。生木を削る体験を経てからは、SPF材がなんだか異質に感じられたのを覚えています。
SPF材になった木々も、桐の木も、もちろんすばらしい木々に違いありません!なので、異質な感じの理由はいまだに図り知れないままです。理屈でないところで、自分は生木を削ることに惹かれているみたいです。だいぶん乾いてしまった枝や幹でも、それらを削るほうが既成の板材を削るよりやっぱり楽しいのです。。
■木を根こそぎ切らずに
既成の板材は太い幹から取るわけですが、グリーンウッドワークでは幹でなく枝からつくれるものもたくさんあります。枝を使う分には、幹から伐ってしまう必要はありません。
生木での椅子づくりや器づくりの講座に参加したときには、太い幹を使わせていただいたこともありますが、私は自分のところではもっぱら身の回りの枝ばかりを使っています。裏山などのない住宅街に暮らしているので、生木といえば、伸びすぎて剪定された枝をもらってきたり、台風で折れた枝を拾ってきたり、わがやの「猫の額庭」の木を剪定したり。
(近所で家が取り壊されるときに、庭木がねこそぎ伐られているのを見ると、つい幹も枝もいただきたい衝動にかられますが。。。車がないのでやっぱり枝や若木の幹しかもらってこれないでいます)。
そんな必然のなりゆきで、あまり太くない枝を使って、小さいサイズのものばかりつくっていますが、そうこうしてたら枝材がすごく好きになりました。
△ソメイヨシノの枝で粗削りしたスプーン。
スツールや椅子などに、枝をそのまま(芯持ち材のまま)使うのも大好きです。芯を持ったままの枝は割れのリスクが高いので、水分をゆっくり飛ばすために気を使うことになりますが、それでも枝の自然な曲がりをそのまま生かした、有機的なカーブにはうっとりします。
△剪定枝による、背もたれ付き子ども椅子用の脚と、ミニスツール用の脚。
△剪定枝による、ミニスツール用の部材。
洗練されたデザインの椅子やスツールをつくるなら、太い枝か幹を半割りか四つ割りか八つ割りかしてつくると、すっきりときれいなものができると思います。
洗練された機能的なデザインも、素朴で有機的で自然を感じられるデザインも、どちらも魅力的ですね。。スプーンでも椅子でも、両タイプにそれぞれの味わいがあって、どちらもいいなあと思います。
■ご縁のあった木で
枝をそのまま使う素朴なテイストの椅子やスツールは、アイルランドのアリソン・オスピナさんのやり方を参考に、つくってみたことがあります。
△アリソン・オスピナさんの著書『Green Wood Chairs』。
アリソンさんはヘーゼルの枝を好んで使われています。直径40ミリ以下の枝。最初に椅子をつくろうと思い立ったときにたまたま友人がくれたのがヘーゼルの枝だったから、だそうです。
アリソンさんのこの本は、前半の、いくつかの樹種についてのお話がすてきです。ヘーゼルの木はアイルランドでは「ケルトの知恵の木」とされているというお話から始まって、ヘーゼル以外の椅子づくりに向く樹種についても、神話や伝説なども含めてホリスティックに紹介されています。
「木材の入手方法」についてのページでは、いろんな情報を書いておられますが、そこでも印象的なのは「意志があるところには必ず道が開けるもの。ひらめきが降りてきたなら、ふさわしい材はそこらじゅうに見つかるようになります」という一文。
樹種によって含水率や繊維の密度などさまざまなので、つくりたいものに対してどんな樹種がふさわしいかもいろいろだとは思うのですが、アリソンさんのようにご縁のある木から始めていくのでいいんだと思います。
私自身は、たまたまご縁があったのはセンダンでした。
部屋のすぐ外の「ねこの額庭」と呼んでいる小さな庭に、あるとき草が生えてきたので、「なんだろう、このニンジンみたいなセリみたいな葉っぱは?」と思ってそのまま見守っていたら、みるみるぐんぐん大きくなったのが、センダンでした。
今では屋根を超える高さに枝を伸ばすくらいに大きくなって、あっという間に幹もそこそこ太くなり。。成長の速さにびっくり。
△窓のすぐ向こうににょきにょきと伸びて、夏の間はこもれびをつくってくれるようになったセンダンの木。
その木の向かいに、もっと古くから生えていたセンダンが1本と、家の逆側に、前から生えていたセンダンがもう1本あって、それらは最初から幹が立派でした。どのセンダンも成長が速いので、電線やアンテナにひっかからないよう、枝をまめに払う必要があります。
この家に越してきてから、10回ほど四季を巡っていますが、そのあいだにセンダンの木々たちのことがだいぶんわかってきました。
青々と繁らせる葉っぱは夏の日差しを遮って室内を涼しくしてくれること。秋には黄色くなった葉っぱがどっさり落ちること。黄緑色のまるいかわいい実がなると、それは近所のヒヨドリたちに好まれること。冬に枝を払っても春にはまた元気に新しい枝が幹から出てくること。
△黄緑色のかわいいセンダンの実。
とにかく元気のいい木です。しっかりした幹が二股に分かれているところは、材を銑で割るときの「こじり台」代わりとしても活躍してくれています。
剪定したセンダンの枝は、最初は水分がシャビシャビにあって柔らかいのですが、乾燥していくとカンカンに硬くなります。樹皮は外皮は褐色ですが、その下の内皮は黄色がかっていて薬効成分があるそうです。樹皮をきれいに剥いてしまうと、白っぽい肌のきれいな円柱になります。
水分が多いので、樹皮を剥くと一気に乾燥が進むため、木口からの割れには気を使わないといけません。急速に水分がとばないように、ワックスを木口だけでなく全体に塗るなどの工夫が必要です(どう工夫するのが最善かはまだ研究途上)。
まだとことん納得のいくクオリティのものはつくれてないですが、自分が日常で使うぶんには問題のないものがつくれています。
アリソンさんのヘーゼルの椅子のように、樹皮付きの枝と樹皮を剥いた枝を取り混ぜたデザインもつくってみています。レッドブラウンの樹皮は味わいがあって好き。
△センダンの枝でつくってみているもの:スツール(大・小)、折り畳み式3脚スツール、削り花のアロマディユーザー。
■少しずつ、ほかの樹種ともおつきあい
あと、最近おつきあいが始まったのが、ケヤキです。たまたま剪定されていた街路樹のケヤキや、家の取り壊し現場で伐採されたケヤキに出会ったことがきっかけでした。
センダンとはまったく質感が違います。細い枝でさえ、とっても繊維が緻密。灰色がかった樹皮は堅牢です。
センダン以上にしっかりしているようなので、椅子の脚に向くのでは、と思っています。まずは、はつり台の脚にしてみました。
△ケヤキの枝をはつり台の脚に。
椅子は、でも、しっかりしているだけでなく、柔軟性がある程度あるほうが、体の動きを受け止めてくれる心地よい椅子になるのだろうと思います。先人はそうしたことを総合的に考えて、椅子づくりに利用する樹種を選んできたはず。
昔から生木での椅子づくりに利用されてきた樹種は、私の知るところだと、イギリスならアッシュ、スペインならポプラ、アメリカならレッドオークやヒッコリーなどがあるようです。
日本なら、どんな樹種が椅子づくりに合っているのかな? 枝の利用とは違ってしまいますが、森林文化アカデミーのグリーンウッドワーク指導者養成講座のときに、エゴノキの若木で椅子をつくらせていただいたことがあります。柔軟性と軽さと強度があって、椅子向きの樹種のように感じました。
△直径10cmくらいのエゴノキからつくった椅子(岐阜で和傘の部品生産に必要なエゴノキのお世話をしているプロジェクトがあり、そこで和傘の部品にするには太くなりすぎたものを使用)。
いろんな樹種で生木の椅子づくりを体験している方が、今や日本全国に大勢いらっしゃると思うので、椅子におすすめの樹種があったら教えていただけたらうれしいです。(おすすめいただいても、その木とご縁がないと始まらないことではあるのですが。。。💦)。
■めぐり合わせを受け取りつつ。。
ご縁のあった身の回りの木に親しみつつ、その木とできることをしていく、という感じでやっているので、自分はひょっとしてグリーンウッドワーカーとしては規格外かもしれないと感じるときもありますが。。。街暮らしの小さいねずみとしては、それが身の丈に合っている今現在です。
木削り場を開くようになったら、それぞれにご縁のある枝を持って削りに来ていただけたりすると楽しそうだなあ、などと考えてもいます。
アリソンさんにとってのヘーゼルのように、どの人にも、この木となぜかご縁が、というのがありそうな気がするのです、なんとなくだけど。。
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ぐり と グリーンウッドワーク https://guritogreen.com/