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『自分への説法』 島田清次郎

自分が天才であることをしんじてもよい
もし自分が天才でありたいなら天才であることだけを信ぜよ。
それ以上を信ずるな
それ以外を信ずるな
天才とは容易に表はれるものでない
天才とは容易に理解されないものだ
天才のために奉仕せよ
天才のみを尊べ
天才のために犠牲をこばむな
天才になり切れ
もつと苦勞せよ

忍耐せよ
汝の肉體
高慢を去つて自信を得よ
唯一筋の道をゆけ
正直に歩め
投機者になるな
僥倖を求めるな
他人に頼るな
質實に生きよ

飛躍は汝の外にあるではないか
飛躍は汝のうちにある
他のために生活するな
自分のために生きよ
自分のすることを廣告する必要はない
かくす必要もない
正しく内へ内へと深くなれ
謙虚であれ
一秒間も自分の看視をはなれるな
看視を忘れる程に看視せよ

常に自分の主人であれ
常に流れよ
よどんでゐてはいけない
迷つてゐてはいけない
迷(まよひ)や腐敗は汝自身を忘れ、外的の飛躍を思ふから起るのだ。
汝の歩みから眼をはなすな
一歩一歩きづきあげて行け。
汝のものは遠い未來にあるのでない
汝の一歩一歩は汝の尊い生である生活である
常に切り拓け

常に汝自身を創つて行け
誇大妄想狂となるな
狂人は現實の眞珠をふみにじつて
彼岸の黄金を求めるが故に何ものをも得られない。
やがて彼の破滅がくるのみだ
死がくるのみだ。
人生の死者であるなかれ
生き生きとのぞみに燃えよ
空想家であるな
眞實なリアリストであれ

戰へ
手を握れ
歌へ
何でもせよ
地上に立つてせよ
土を忘れるな
淸二郎よ、お前は狂人にならうとしてゐる
お前は死なうとしてゐる
お前は悩み疲れてゐる
それはお前が惡いのだ

お前が自信もないくせに高慢になつたからだ
お前はもうすつかりえらくなつたやうな氣になつたからだ
ちつともえらくないのだ
えらくないのだぞ
ちつともえらくないのだぞ
汝はだめなのだぞ
よつく見よ、分ることだ
妄想してはいけない
正しく眼をひらけ
若々しくあれ

眞(まこと)に眼をさませ
凡人でもよいのだ
凡人でもよいのだ
外を見るな
内をみよ
内にのび、内にえて、外へあふれ出でよ
常に永遠を思へ
一時限りのつくろひに頭を悩ますな
人生を断片にするな
生活を断片にするな

生をぼろぼろにするな
流れよ
大河をみよ
海のうねりをみよ
勢(いきほひ)よく流れよ
しつかりせよ
狂人になるな
りつぱになれ
しつかりしろ
淸二郎よ

しつかりしてくれ!

(完)                              
※聚英閣『早春』大正9年9月20日発行第10版底本


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